「うちもそろそろ・・・」
人手不足時代に製造現場が取り組むべき技術継承のポイント
2026年1月23日
コラム
■業種・業態:製造業/物流業・倉庫業
■キーワード:RFID/技術継承/見える化
この記事のポイント
製造業の現場では、熟練者の高齢化と若手人材の不足により、長年培われてきた技術やノウハウが失われるリスクが高まっています。本記事では、技術継承の基本的な考え方から、継承が進まない背景、そして成功に導くための具体的なアプローチまでを解説します。教える側・教わる側の双方の視点を踏まえ、デジタル技術を活用した効率的な技術継承のヒントをお届けします。
はじめに
「熟練者が来年定年を迎えるが、後継者が育っていない」「若手に教えたいが、日々の業務に追われて時間が取れない」──製造現場の管理者から、こうした声が多く聞かれるようになりました。
2024年版ものづくり白書によれば、製造業の約6割が技能継承に問題を抱えていると回答しています。さらに、34歳以下の若年就業者数は2002年の384万人から2023年には259万人まで減少しており、技術を受け継ぐ人材そのものが不足している現状が浮き彫りになっています。
技術継承の問題は、「いずれ取り組まなければならない課題」から「今すぐ手を打たなければ間に合わない課題」へと変わりつつあります。本記事では、技術継承とは何か、なぜ今その重要性が高まっているのかを整理したうえで、継承を阻む課題と、それを乗り越えるための具体的な取り組みを解説します。
技術継承とは?その定義と重要性
技術継承の定義
技術継承とは、企業や組織において、ベテラン社員が長年培ってきた技術・知識・ノウハウを、若手社員や後継者に伝承することを指します。単に作業手順を教えるだけでなく、経験から生まれた判断力や問題解決能力、いわゆる「勘」や「コツ」といった暗黙知も含めて引き継ぐことが求められます。
製造業においては、「技術」と「技能」を区別して捉えることがあります。技術は設計図や作業手順書など言語化・文書化できる「形式知」を中心とし、技能は経験や感覚に基づく「暗黙知」を中心とします。
形式知は、マニュアルや図面として残すことができるため、比較的継承しやすい知識です。一方、暗黙知は「体で覚える」「感覚でわかる」といった性質を持ち、言葉で説明することが難しいため、継承の難度が高くなります。技術継承を成功させるには、この両方をバランスよく伝えていく必要があります。
なぜ今、技術継承が求められているのか
日本の製造業では、団塊世代の大量退職がすでに進行しています。現場を長年支えてきたベテラン技術者が次々と引退し、その技術やノウハウが失われるリスクが現実のものとなっています。さらに今後は、団塊ジュニア世代が65歳以上を迎える2040年に向けて、人手不足はより深刻化すると予測されています。
帝国データバンク「倒産集計 2024年報」(2025年1月発表)によれば、2024年の「後継者難倒産」は540件に上り、業種別では建設業(124件)が最多、製造業(95件)がそれに続いています。技術継承が進まなければ、企業の競争力低下どころか、事業継続そのものが危ぶまれる、待ったなしの状態といえます。
また、技術継承の遅れは品質問題にも直結します。熟練者がいなくなった現場では、不良品の発生率が上がったり、トラブル対応に時間がかかったりするケースが報告されています。技術継承は、企業の存続と品質維持を左右する経営課題として捉える必要があります。
技術継承が進まない背景と課題
人手不足と熟練者の高齢化
2024年版ものづくり白書によれば、製造業の就業者数は2002年の1,202万人から2023年には1,055万人へと減少しています。さらに、若年就業者(34歳以下)も2002年の384万人から2023年には259万人へと約33%減少しており、技術を受け継ぐべき若年層の減少が、継承の受け皿そのものを狭めています。
現場では「そもそも教える相手がいない」という状況が珍しくありません。せっかく採用しても、仕事の厳しさや将来への不安から早期に離職してしまうケースも後を絶たず、技術を受け継ぐ人材の確保そのものが大きな課題となっています。
暗黙知の言語化が難しい
熟練者の技術には、「この音がしたら異常の前兆」「手の感覚でわかる」といった、言葉にしにくい判断基準が含まれています。こうした暗黙知は、マニュアルや手順書に落とし込むことが難しく、長年の経験を通じて体得するしかないとされてきました。
また、ある倉庫では棚卸作業において「どこに何があるか」をベテラン担当者だけが把握しており、その方が不在になると作業効率が著しく落ちるという状況がありました。このような暗黙知の属人化は、多くの現場で見られる課題です。
さらに、ベテラン自身が「自分がどうやっているか」を意識していないケースも少なくありません。長年の経験で身についた動作や判断は、本人にとっては「当たり前」であり、改めて言語化しようとしても難しいのです。
OJT依存の限界と時間不足
多くの製造現場では、OJT(On-the-Job Training)を中心とした技術継承が行われてきました。先輩の作業を見て学び、実際にやってみて体得するという方法です。しかし、この方法には限界があります。
2024年版ものづくり白書では、製造業の61.8%が「指導する人材が不足している」、46.1%が「人材育成を行う時間がない」と回答しています。ベテランは日々の生産業務で手一杯であり、若手に丁寧に教える時間を確保することが難しいのが実情です。
教える側に余裕がなければ、教え方が雑になったり、「見て覚えろ」という旧来のやり方に戻ってしまったりします。また、OJTは指導者のスキルに依存するため、教え方にばらつきが生じやすいという問題もあります。
世代間ギャップとコミュニケーション不足
技術継承が進まない要因として、世代間の意識の違いも挙げられます。ベテラン世代には「技術は教わるものではなく盗むもの」という考え方が根強く残っている場合があります。一方、若手世代は「きちんと教えてもらいたい」「なぜそうするのか理由を知りたい」と考える傾向があります。
この意識のギャップが埋まらないまま育成が進むと、ベテランは「若手の飲み込みが悪い」、若手は「教え方がわかりにくい」と感じ、双方に不信感が募ってしまいます。技術継承には、技術そのものだけでなく、コミュニケーションの改善も欠かせません。
技術継承を成功させるためのポイント
業務の標準化と可視化
技術継承の第一歩は、現在の業務を可視化し、標準化することです。どの作業にどのような手順があり、どこに判断が求められるのかを洗い出します。これにより、ベテランの頭の中にしかなかった知識を、組織として共有できる形に変えていくことができます。
標準化にあたっては、単に手順を文書化するだけでなく、「なぜそうするのか」という背景や理由も含めて記録することが重要です。若手が「なぜ?」を理解できれば、応用が利くようになり、定着も早まります。
動画マニュアルやデジタルツールの活用
言葉では伝えにくい「動き」や「コツ」を伝えるには、動画マニュアルが有効です。熟練者の作業を撮影し、手元の動きや作業のスピード、判断のタイミングなどを視覚的に記録することで、文字だけでは伝わらない情報を共有できます。
動画であれば、若手は自分のペースで繰り返し確認でき、ベテランも同じ説明を何度もする必要がなくなります。近年は、スマートフォンやタブレットで簡単に撮影・編集できるツールも普及しており、導入のハードルは下がっています。
若手視点を取り入れた育成体制の構築
技術継承は、教える側だけでなく、教わる側の視点も重要です。若手が「何がわからないのか」「どこでつまずいているのか」を把握し、育成計画に反映させることで、より効果的な継承が可能になります。
定期的な振り返りの場を設け、若手からのフィードバックを受け入れる姿勢が大切です。「質問しやすい雰囲気」をつくることも、技術継承を円滑に進めるうえで欠かせない要素です。
ベテランと若手の相互理解を促す仕組み
世代間ギャップを埋めるには、意識的にコミュニケーションの機会をつくることが有効です。少人数のグループで一緒に作業する機会を設けたり、作業後に簡単な振り返りを行ったりすることで、相互理解が深まります。
また、ベテランに対しては「教えることの意義」を伝え、評価制度や手当に反映させることでモチベーションを維持する工夫も必要です。教えることが組織への貢献として認められる仕組みがあれば、技術継承に前向きに取り組む風土が醸成されます。
デジタル技術を活用した技術継承の進め方
作業の見える化と記録の自動化
技術継承を効率化するうえで、デジタル技術の活用は有効な手段です。たとえば、作業実績を自動で記録する仕組みを導入すれば、「誰が・いつ・何を処理したか」がデータとして蓄積されます。これにより、若手の作業状況を可視化でき、適切なタイミングでフィードバックを行いやすくなります。
一例として、RFID(Radio Frequency Identification)を活用した現場では、棚卸作業や入出庫作業の記録が自動化され、ベテランの「勘」に頼っていた在庫位置の特定が、誰でも同じ精度で実行できるようになったケースがあります。作業が標準化されることで、若手の習熟期間が短縮される効果も期待できます。
暗黙知の形式知化を支援するツール
暗黙知をそのまま放置すると、ベテランの退職とともに失われてしまいます。デジタルツールを活用して、可能な限り形式知に変換し、組織として蓄積していくことが重要です。
たとえば、過去の図面データや作業履歴を一元管理するシステムを導入すれば、ベテランだけが知っていた「過去にどう対応したか」という情報に、若手もアクセスできるようになります。経験の浅いメンバーでも適切な判断がしやすくなります。
認証・トレーサビリティと技術継承の連携
製造現場では、品質管理やトレーサビリティの観点から、作業者の認証や作業履歴の記録が求められる場面が増えています。ICカードやRFIDを活用した認証システムを導入すれば、「誰がその作業を行ったか」が自動的に記録されます。
この仕組みは、技術継承にも活用できます。若手の作業履歴を確認することで、習熟度の把握や指導ポイントの特定がしやすくなります。
紙が残る現場での技術継承をどう進めるか
製造・物流の現場では、検査記録や作業指示書など、紙の帳票が依然として多く使われています。「紙の方が一覧性がある」「現場で書き込みやすい」といった理由から、すべてをデジタル化することが難しいケースも少なくありません。
しかし、紙ベースの運用では「誰が・いつ・何を処理したか」の記録が残りにくく、若手の作業状況を把握しづらいという課題があります。技術継承を進めるうえで、作業の見える化は重要な基盤です。
こうした課題に対し、紙の帳票を残しながらデジタルデータと連携させるハイブリッドな運用も選択肢となります。たとえば、RFタグを活用すれば、紙の使いやすさを活かしつつ、作業実績の自動記録や担当者の認証管理が可能になります。
まとめと次のアクション
技術継承は、製造業にとって避けて通れない経営課題です。人手不足と熟練者の高齢化が進む中、「いつかやろう」では間に合わない状況になりつつあります。
自社の技術継承課題を整理する
まずは自社の現状を把握することから始めましょう。どの業務が属人化しているのか、どのベテランがいつ退職を迎えるのか、若手の習熟度はどの程度かを整理します。課題が明確になれば、優先的に取り組むべき領域が見えてきます。
属人化解消と技術継承を同時に進める視点
技術継承と属人化解消は、表裏一体の関係にあります。「人手不足→属人化→技術継承が進まない」という悪循環を断ち切るには、両方の課題に同時に取り組む視点が必要です。属人化解消の具体的な進め方については、関連記事「『あの人頼み』をなくすには?情報の見える化と仕組みづくりで属人化を解消する方法」もあわせてご覧ください。
技術継承の基盤づくりを支援するRFIDソリューション
東芝テックでは、帳票印刷とRFタグ書き込みを同時に行える「A3カラープリンターRFIDソリューション」を提供しています。これにより、既存の帳票業務を大きく変えることなく、作業実績の自動記録や進捗の見える化を実現できます。
技術継承の基盤づくりとして、まずは現場の記録・認証の仕組みを整えたいとお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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※当記事は2026年1月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

