ゼロパーティデータとは?
ファーストパーティデータとの違いや近年注目されている理由
高度なパーソナライズがなされたサービスが広く浸透している現在ですが、昨今の個人情報保護への関心の高まりを受け、従来の形式でのデータ取得オペレーションは見直されつつあります。
こうした状況のなかで注目されているのが、顧客が意図的、あるいは積極的に共有するデータである、「ゼロパーティデータ」です。本記事では、ゼロパーティデータが注目されている背景や課題、具体的な収集方法について解説します。
ゼロパーティデータとは
ゼロパーティデータとは、顧客の意図的・積極的な行動から企業に共有されるデータです。具体的には、メールマガジンの配信などを管理するメールプリファレンスから取得するデータや、顧客アンケートやヒアリングへの回答などが該当します。
つまり、ゼロパーティデータは「第三者を介さないデータ」であり、大枠としてはファーストパーティデータに含まれます。ただし、自社のWebサイトやアプリなどを通じて自動的に収集されるファーストパーティデータに対して、ゼロパーティデータは顧客が自ら提供する情報であるため、より精度の高いインサイトとして評価できるデータです。
ファーストパーティデータとは
ファーストパーティデータとは、第三者を介さずに企業が独自に入手するデータです。自社のWebサイト上での行動履歴や購買履歴、会員登録時に入力した氏名・生年月日・住所などのデータが該当します。
ファーストパーティデータは、ユーザーが実際に訪問したWebサイトのドメインから発行される、ファーストパーティCookieによって記録されます。顧客から直接収集できる特性から、後述するセカンドパーティデータ、サードパーティデータと比較しても、高い信頼性や正確性を評価できるデータです。
セカンドパーティデータとは
セカンドパーティデータは、パートナー企業など特定の企業から得られる外部データです。自社での収集が難しいデータを獲得する場面などで活用される、パートナー企業が持つcookie情報などが該当します。
つまりセカンドパーティデータとは、パートナー企業のファーストパーティデータとも言い換えられます。データの収集に第三者を介すことから、正確性や透明性に多少の疑問符が付くのは否めません。
サードパーティデータとは
サードパーティデータは、データ収集・販売などを実施する企業など、第三者が収集する外部データです。サイトに掲載している広告など、第三者ドメインから発行されるサードパーティCookieによって記録されます。
ただし、こちらも第三者から提供されるデータであり、正確性や信頼性は担保されません。また、個人情報保護の観点が考慮され、ユーザーの意図しないところで収集されるサードパーティデータの活用に対し、規制が強化されつつあります。
ゼロパーティデータが注目される理由
現在、ゼロパーティデータが注目されているのは、以下のような理由が関連しています。
- 個人情報保護に関する法規制が進んでいる
- 追跡されることへの不快感や不信感
- よりパーソナライズされたサービスが求められている
個人情報保護に関する法規制が進んでいる
個人情報保護およびプライバシー保護を強化する動きは、世界中で進んでいます。
たとえばEUでは、GDPR(EU一般データ保護規則)が、カリフォルニア州ではCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)が施行され、大きなトピックスとして迎えられました。この流れはさらに加速し、各国も追随し独自の個人情報保護規定を打ち出しています。
なかでも問題視されているのが、横断的にユーザーの動きを追跡し、リターゲティング広告やDSP広告などに利用されているサードパーティcookieです。ユーザーの意図しないデータ収集方式への問題意識の高まりを受け、safariやChromeなど主要なWebブラウザも廃止に踏み切りました。今後はサードパーティデータの収集は叶わなくなるでしょう。
そこで、顧客自らが同意のうえで共有するゼロパーティデータに注目が集まっているのです。
追跡されることへの不快感や不信感
Cookieを介して記録される個人情報は、ユーザーが知らず知らずのうちに収集されています。本来、cookieはユーザーのWebブラウジングの利便性を高めるものですが、その役割を承知していないユーザーにとっては、閲覧履歴などの個人情報を記録されていることに対し、不快感や不信感を募らせるのはやむを得ないでしょう。
先にも紹介したとおり、個人情報およびプライバシー保護の観点から、サードパーティデータの活用は規制されていく方針が打ち出されています。
これにより、ファーストパーティデータの重要性はますます増していき、なかでも顧客自らの同意のうえで共有されるゼロパーティデータが注目されていくのは当然の流れでしょう。
よりパーソナライズされたサービスが求められている
ITインフラの発展に伴い、Webサイトなどから収集されるデータの活用の幅は格段に広がっています。いまでは、従来のように広くマス層を意識するのではなく、より「個」に最適化されたサービスの提供が実現しました。なかでもファーストパーティデータは信頼性や正確性の高さから、マーケティングに欠かせないものとなっています。
しかし、その精度も完全ではありません。ファーストパーティデータは、あくまでもドメインが「自動的に」収集する行動データや静的データです。よりパーソナライズされたサービスの提供にあたっては、顧客が「意図的に」提供するゼロパーティデータの精度にはおよびません。
ゼロパーティデータの課題
多くのメリットがあるゼロパーティデータですが、その反面、次のような課題も指摘されています。
- データに偏りが生じる可能性がある
- データの収集にコストがかかる
そもそも、企業のデータ収集に前向きに協力してくれる顧客はそれほど多くはありません。個人情報流出などの問題が定期的に取り沙汰されるなか、リスクを冒してまで無償で自身の情報を提供しようと考える人は少数派でしょう。
そのため、一定数のデータの収集にはインセンティブの用意などが欠かせず、取得コストの発生は避けられません。
データに偏りが生じる可能性がある
ゼロパーティデータは、企業に協力的なスタンスの顧客から提供されるものです。取得できるデータ量が少なくなることが懸念されるほか、データの提供元が一部の特性やバイアスを持つユーザーに偏ってしまうことも考えられるでしょう。
これを防ぐためには、多くの顧客が回答したくなるような工夫が必要です。たとえば、顧客アンケートを実施する際は心理的・時間的ハードルを下げるために回答を対話形式にしたり、回答者に何かしらのインセンティブを付与したりといった要領です。
データの収集にコストがかかる
ゼロパーティデータの収集は、顧客にデータを入力する手間を強いる形となります。よほどエンゲージメントが高い顧客であれば、インセンティブを用意しなくても回答してくれるかもしれませんが、顧客の大多数はそうではありません。
また、インセンティブを用意するコストがかかるほか、データ収集にあたり専用アプリやWebページを作るのであれば、その制作費も発生します。
ただし、インセンティブは必ずしも金銭的な対価である必要はありません。たとえば、データ収集に際してパーソナル診断やクイズなどを取り入れて、「自分を知れる」「楽しく暇をつぶせる」といったエンターテインメント性をインセンティブとして提供する方法なども考えられます。
ゼロパーティデータの収集方法
ゼロパーティデータの主な収集方法には、以下の2つのアプローチがあります。
- アンケート
- 顧客へのヒアリング
アンケート
ゼロパーティデータの取得における代表的な方法が、アンケートの実施です。参加しやすく多数の回答を得やすい、Webアンケートがおすすめになります。顧客の同意を得たうえで収集しましょう。
ただし、アンケ―トの質問は一般的にはテキストベースとなります。質問を設定する際には、誰が読んでも誤解が生じないような文章にすることを心がけなくてはいけません。質問の趣旨が伝わらず、認識の齟齬が生じてしまうと、回答の有効性も毀損されてしまいます。
顧客へのヒアリング
顧客からの問い合わせや、カスタマーサクセスなどに寄せられる、商品・サービス購入後のタッチポイントは、顧客に直接ヒアリングできるチャンスです。ヒアリングにおいても顧客の同意を得たうえで、商品やサービスのなかで最も利用する機能や、好みの色、あるいは解約の理由など、自社が取得したいデータに関する質問を投げかけます。
また、LINEなどにてAIチャットボットを活用する、チャットコマースも有効なヒアリング方法です。
ゼロパーティデータの活用事例
最後にゼロパーティデータを収集して成果をあげている、企業の活用事例を紹介します。
旅行の予約サービスの活用事例
60代以上の層を既存顧客のボリュームゾーンとする旅行予約サービスでは、ゼロパーティデータを収集し、そこからニーズの高い検索ワードを割り出しました。この検索ワードを標準として検索オプションに組み込み、顧客の利便性を高めるなど、ニーズに沿ったUIの構築に活かしています。
さらに、「部屋食」「足腰に優しい宿」など、シニア層が求めるキーワードに沿ったコンテンツも制作して、顧客に寄り添ったサービスのさらなる強靭化に活用しています。
アパレルの活用事例
ポロシャツで有名な大手アパレルメーカーでは、初回購入者の大半がポロシャツを購入していました。しかし、そのデータだけに着目すると、同じようなポロシャツをレコメンデーションすることになるため、なかなか次回購入につながっていきません。
そこで、「チャレンジしたい長袖ポロシャツカラー」と銘打ったキャンペーンを実施。アンケートに答えた人のなかから抽選で、投票数の多かったポロシャツをプレゼントするインセンティブを付けました。結果、従来のキャンペーン実施時の2倍以上の反応の獲得に成功しています。
まとめ
収集したゼロパーティデータの有効活用は、企業のマーケティングの高精度化を後押しし、顧客にはよりパーソナライズ化されたサービスを提供します。このようにWin-Winの関係を構築できれば、企業に対する顧客エンゲージメントも高まっていくでしょう。
これまでのマーケティング施策の主力を担ったサードパーティデータには、広い市場に向けてリーチできる特性など、少なくないメリットがありましたが、規制が強まっていく流れは避けられません。ゼロパーティデータの収集は、今後のビッグトレンドになっていくと考えられます。