ワークライフバランスを実現するには?
人手不足・長時間労働を解消するDX活用の考え方
2026年1月23日
コラム
■業種・業態:製造業/物流業・倉庫業
■キーワード:RFID/ワークライフバランス/働き方改革/効率化
はじめに
「残業を減らしたいが、現場の業務量は減らない」「働き方改革を進めたいが、何から手をつければよいかわからない」──製造業や物流業の現場責任者から、こうした声が多く聞かれます。
ワークライフバランスの実現は、従業員の健康維持やモチベーション向上だけでなく、人材の確保・定着、ひいては企業の持続的な成長にも直結する重要なテーマです。しかし、現場では依然として長時間労働や業務負荷の偏りが解消されず、理想と現実のギャップに悩む企業が少なくありません。
本記事では、ワークライフバランスが求められる社会的背景を整理したうえで、実現を阻む具体的な課題と、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した解決の方向性を解説します。
ワークライフバランスが求められる背景
価値観の変化と働き手のニーズ
かつて「長時間働くことが美徳」とされた時代から、社会の価値観は大きく変化しています。若い世代を中心に、仕事と私生活の両立を重視する傾向が強まり、「プライベートの時間を確保できるか」が就職先選びの重要な基準となっています。
厚生労働省の調査によれば、転職理由として「労働時間・休日等の労働条件」を挙げる人は一定数存在しており、近年も無視できない割合を占めています。優秀な人材を確保し定着させるためには、ワークライフバランスへの取り組みが欠かせない時代になりました。
また、共働き世帯の増加や介護と仕事の両立といった社会構造の変化も、柔軟な働き方へのニーズを高めています。育児や介護を理由に離職せざるを得ない状況は、企業にとっても大きな損失です。多様な働き方を受け入れる体制づくりが、企業の競争力を左右するようになっています。
法改正と行政の動き
働き方改革関連法の施行により、時間外労働の上限規制や年次有給休暇の取得義務化など、法的な枠組みも整備されました。
2024年4月からは建設業や運送業にも時間外労働の上限規制が適用され、物流業界でも対応が進む一方、現場運用や業務効率化が引き続き課題となっています。
さらに、労働安全衛生法の改正により、一定規模以上の事業場ではストレスチェックの実施が義務化されるなど、従業員の心身の健康管理に対する企業責任も強化されています。法令遵守の観点からも、長時間労働の是正は避けて通れない課題となっています。
行政も「働き方改革推進支援センター」の設置や助成金制度の拡充など、企業の取り組みを後押しする施策を展開しています。こうした制度を活用しながら、計画的にワークライフバランスの改善を進めることが求められています。
導入効果と先進企業の事例
ワークライフバランスの改善に取り組んだ企業からは、さまざまな効果が報告されています。
ある製造業では、業務プロセスの見直しと自動化ツールの導入により、残業時間を削減しながら生産性を維持することに成功しました。従業員満足度調査のスコアも向上し、離職率の低下にもつながっています。
欧州では「週休3日制」を試験導入する企業も増えており、労働時間を短縮しても生産性が落ちなかったという調査結果も発表されています。日本国内でも、大手企業を中心にフレックスタイム制の拡充やテレワークの定着が進み、働き方の選択肢が広がりつつあります。
重要なのは、単に労働時間を減らすだけでなく、業務の効率化とセットで取り組むことです。ワークライフバランスの実現と生産性向上は、決して二律背反ではありません。
ワークライフバランス実現に向けた課題
ワークライフバランスの重要性は理解していても、現場では依然として「働き過ぎ」の問題が解消されていないケースが多くあります。ここでは、実現を阻む代表的な課題を整理します。
長時間労働と業務量の偏り
製造業や物流業の現場では、特定の時期や特定の担当者に業務が集中しやすい構造があります。繁忙期の残業が常態化している、あるいはベテラン社員に業務が偏っているといった状況は、多くの現場で見られる課題です。
一例として、ある製造現場では棚卸作業が特定の熟練者に依存しており、その方が不在になると作業が滞るという状況がありました。「この在庫はカウント不要」という暗黙知、担当者だけが把握している置き場所、人によって異なるカウント方法、差異が出たときの調整判断──明文化されていないルールが作業を支えていたのです。属人化した業務は、担当者本人の負荷増大だけでなく、組織全体のリスクにもなります。
また、業務量の偏りは「見えにくい」という問題もあります。誰がどれだけの業務を抱えているかが可視化されていないと、負荷の集中に気づかないまま、特定の人材が疲弊していくことになります。
ムダな手作業による業務効率の低さ
現場業務を細かく見ていくと、「昔からこのやり方だから」という理由で続けられている非効率な作業が見つかることがあります。手書きの記録、二重三重のチェック作業、Excelへの手入力など、本来なら自動化や簡略化できる工程が残っているケースは珍しくありません。
こうした手作業は、単に時間を浪費するだけでなく、ヒューマンエラーの温床にもなります。ミスが発生すれば手戻りが生じ、さらに労働時間が増えるという悪循環に陥りがちです。
さらに、手作業が多い職場では、作業手順が担当者の頭の中にしかなく、引き継ぎや教育に時間がかかるという問題も生じます。新人が戦力化するまでの期間が長くなり、その間ベテランの負担が増えるという構造的な課題につながっています。
紙業務の煩雑さと情報共有の遅れ
製造業や物流業の現場では、いまだに紙の帳票や伝票が多く使われています。検査記録、作業指示書、出荷伝票など、紙ベースの業務が残っていると、情報の検索や共有に時間がかかります。
「あの書類はどこにあるか」「最新版はどれか」といった確認作業に時間を取られたり、拠点間での情報共有がFAXや郵送に頼っていたりする状況では、業務のスピードが上がりません。
一例として、ある倉庫の現場では、入出庫のたびに紙の伝票に手書きで記入し、それを事務所でシステムに再入力していました。この二重作業が担当者の残業の大きな要因の一つとなっています。紙とデジタルの分断は、現場の負担を見えにくくしている場合があります。
テレワークを阻むアナログ業務とセキュリティ不安
コロナ禍を経てテレワークが普及しましたが、製造業や物流業では「現場に行かなければできない業務」が多いため、導入が進みにくい面があります。しかし、バックオフィス業務や管理業務まで出社を前提としているケースでは、見直しの余地があるかもしれません。
「紙の書類に押印が必要」「社内システムに社外からアクセスできない」「セキュリティが不安で持ち出せない」といった状況が、柔軟な働き方の実現を妨げている可能性があります。
育児や介護と仕事を両立したい従業員にとって、こうした環境上の制約は大きな障壁となります。柔軟な働き方ができないことが理由で離職に至るケースもあり、人材確保の観点からも看過できない課題です。
ワークライフバランスの「実現」に必要な視点
課題を整理したうえで、ワークライフバランスを実現するために押さえておきたい視点を解説します。
「残業禁止」だけでは何も解決しない
ワークライフバランスの実現において最も重要なのは、「労働時間を減らしても成果を維持できる仕組み」をつくることです。単に残業を禁止するだけでは、業務が回らなくなったり、サービス残業が発生したりするリスクがあります。
「早く帰れ」という号令だけでは、仕事を持ち帰ったり、翌日に業務がしわ寄せされたりするだけです。労働時間の削減と業務量の適正化は、セットで考える必要があります。
「木を見て森を見ず」が改革を失敗させる
個々の作業を効率化しても、業務フロー全体に非効率が残っていては効果が限定的です。たとえば、入力作業を自動化しても、その前後で紙の受け渡しや手作業が残っていれば、ボトルネックは解消されません。
業務の流れ全体を俯瞰し、どこに時間がかかっているのか、どの工程で待ち時間が発生しているのかを把握する視点が重要です。改善策を考える前に、まず「全体像を把握する」というステップを踏むことで、的外れな施策を避けられます。
「一気に変える」より「小さく始める」
全体を俯瞰することは大切ですが、だからといって一度にすべてを変えようとするのは現実的ではありません。大規模な改革は検討に時間がかかり、現場の抵抗も大きくなりがちです。
効果が見えやすい領域から小さく始め、成功体験を積み重ねながら徐々に範囲を広げていくアプローチが有効です。小さな成功を見せることで、「変えてもよいことがある」という認識が組織に広がり、次の改善への推進力になります。全体最適を意識しながらも、実行は段階的に進めるのが成功の鍵です。
事務所だけ・現場だけでは片手落ち
製造や物流の現場作業は出社が必要ですが、管理業務や事務作業については柔軟な働き方を取り入れる余地があります。現場の効率化と、バックオフィスの働き方改革を両輪で進める視点が、組織全体のワークライフバランス向上につながります。
現場だけ、あるいは事務部門だけを対象にするのではなく、両者の連携も含めて業務を見直すことで、組織全体としての最適化が実現できます。
課題解決の鍵となる業務効率化とデジタル活用
ここからは、ワークライフバランス実現に向けた具体的な施策を紹介します。
業務の棚卸と可視化
業務改善の第一歩は、現状の業務を可視化することです。どの作業にどれだけの時間がかかっているか、誰がどの業務を担当しているかを洗い出し、ムダや重複がないかを点検します。
棚卸の結果、「この作業は本当に必要か」「もっと簡単にできる方法はないか」といった問いを立てることで、改善のヒントが見えてきます。現場の担当者を巻き込んで意見を集めることも重要です。実際に作業している人が一番課題を把握しているからです。
業務の棚卸は、属人化の解消にも効果があります。誰が何を知っているかが明らかになることで、ナレッジの共有や引き継ぎの計画も立てやすくなります。
RPAやワークフローによる自動化
定型的な事務作業については、RPA(Robotic Process Automation)やワークフローシステムなどの自動化ツールを活用することで、大幅な時間短縮が可能です。データ入力、帳票作成、承認プロセスの電子化など、人が介在しなくても済む業務を自動化することで、担当者はより付加価値の高い業務に集中できます。
自動化によって削減された時間は、そのまま残業時間の短縮につながります。また、ヒューマンエラーが減ることで、手戻りや修正作業も削減できます。
RPA導入の詳細については、こちらの関連記事もあわせてご覧ください。
認証・文書管理の電子化とテレワーク基盤の整備
認証や印刷、文書管理といった日常業務にも効率化の余地があります。書類を探している時間、押印のために出社している時間など、細かなムダが積み重なると無視できない負担になります。
文書管理システムを活用しペーパーレス化を進めれば、「いつでも・どこでも」書類にアクセスできる環境が整い、テレワークやハイブリッドワークの基盤にもなります。
場所を選ばず働ける環境は、通勤時間の削減や柔軟な時間配分を可能にし、育児や介護との両立を支援する観点からも重要な施策です。
解決策の一例:RFIDによる働き方改革
業務効率化とワークライフバランス改善を同時に実現する手段として、RFID(Radio Frequency Identification)の活用が注目されています。
「誰かに聞かないとわからない」をなくす
RFIDを活用すると、モノの動きや作業の進捗をリアルタイムで把握できるようになります。「どこに何があるか」「どの工程まで進んでいるか」が可視化されることで、業務の偏りを早期に発見し、負荷を平準化する判断がしやすくなります。
一例として、ある倉庫へのRFID導入では、棚卸作業の時間が大幅に短縮されました。これにより、棚卸のために休日出勤していたスタッフの負担が軽減され、ワークライフバランス改善につながった事例があります。作業時間の短縮は、そのまま労働時間の削減につながります。
RFIDの仕組みや基礎知識について詳しくは、関連記事「RFIDとは?製造・物流現場の業務効率を変える基礎知識と活用事例」をご覧ください。
「紙かデジタルか」の二択から抜け出す
紙の帳票や伝票をデジタル化することで、記入・転記・ファイリングといった手作業を削減できます。ただし、現場によっては「紙の方が使いやすい」「一覧性がある」といった理由で、すべてをデジタル化することが難しい場合もあります。
そうした場合には、紙の帳票を残しながらデジタルデータと連携させるハイブリッドな運用も選択肢となります。たとえば、RFタグを埋め込んだ帳票を使えば、紙の使いやすさを活かしながら、データの自動取得も実現できます。
まとめと次のアクション
ワークライフバランスの実現は、従業員の健康と満足度を高めるだけでなく、人材確保や生産性向上にもつながる重要な経営テーマです。しかし、「残業を減らせ」という号令だけでは現場は変わりません。業務プロセスの見直しとデジタル活用をセットで進めることが成功の鍵となります。
自社のワークライフバランス課題を整理する
まずは自社の現状を客観的に把握することから始めましょう。どの部門で残業が多いのか、どの業務に時間がかかっているのか、属人化している作業はないかなど、課題を洗い出すことが改善の第一歩です。
業務効率化施策の検討と優先順位付け
課題が見えてきたら、改善施策を検討します。すべてを一度に変えようとすると現場の混乱を招くため、効果が出やすい領域から優先的に取り組むことが大切です。小さな成功体験を積み重ねることで、組織全体の改善意欲も高まります。
ワークライフバランス改善に向けた業務効率化をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。現場の課題整理から、最適なソリューションのご提案まで対応いたします。
業務効率化を支援するRFIDソリューション
東芝テックでは、紙業務の効率化とデジタル連携を両立する「A3カラープリンターRFIDソリューション」を提供しています。帳票印刷とRFタグ書き込みを同時に行えるプリンターにより、既存の業務フローを大きく変えることなくデータの自動取得や認証管理の効率化を実現でき、製造・物流現場で評価されています。
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※当記事は2026年1月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

