なぜ東芝テックは、全社横断のAI組織を立ち上げたのか──AIが当たり前の時代に、東芝テックが目指すAI Innovationとは?

Work style in 東芝テック

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生成AIを導入したものの、一部の社員しか使っていない。便利なツールとしては定着しても、業務そのものは変わっていない。社内で生まれた知見が共有されず、顧客への価値にもつながらない。 AI活用を進める企業の多くが直面するのは、技術そのものではなく、組織と実践の壁です。 この壁を越えるため、東芝テックは、経営陣の後押しのもと、全社横断タスクフォース TEC AI Innovation Hub を立ち上げました。自らの業務でAIを試し、学び、改善し、その経験を全社へ広げる。さらに、流通・小売の現場に長年向き合ってきた知見と掛け合わせ、お客様の課題解決へ還元することを目指しています。 シリーズ第1回では、TEC AI Innovation Hubの中核を担うPMO(Project Management Office)の座談会を通じて、なぜ全社横断の組織が必要だったのか、どのような思いで活動を進め、その先にどのような顧客価値を描いているのかをひも解きます。

部門を超えたAI活用をつなぐ「Hub」として

──そもそも、TEC AI Innovation Hubは、なぜ必要とされたのでしょうか。まず、組織の目的と役割を教えてください。

宮坂 この組織は、東芝テック全社で、AIを業務改善と顧客価値の創出につなげるために、さまざまな部門から集まったメンバーが協力して活動するチームです。取り組んでいるのは大きく4つ。

  1. 生成AIを活用した社内業務プロセス改革
  2. 各部門でAI活用を広めていく「AIエバンジェリスト」の育成
  3. AIで進化を遂げている企業としてのブランド力向上
  4. AI活用による新たなビジネス機会と顧客価値の創出

メンバーは、私を含むPMOの皆さん、そしてAIエバンジェリスト40名ほど。上下関係のないフラットな組織です。各メンバーが専門性を生かして活動しながら、月に約2回のオンライン会議で進捗報告や意見交換を行うような形で運営しています。

※AIエバンジェリスト:AIの活用促進を担い、社内外でAIに関する情報発信や啓発活動を行う人財。

笑顔で説明する宮坂氏。
東芝テック株式会社 TEC AI Innovation Hub(全体PMO)リーダー 宮坂 真弓氏

──個人や部門ごとの取り組みではなく、全社横断の組織が必要になった背景を教えてください。

石田 生成AIという存在が世の中に爆発的に普及しはじめたのは、ChatGPTが登場した2022年末あたりからだったかと思います。当社でも大きな可能性を感じ、業務に取り入れるべく試行錯誤が始まりました。ただ、当初は足並みが揃っておらず、個人・部門が個別に取り組んでいたような状況だったと記憶しています。個別最適のままでは、知見が共有されず、業務の変革や顧客価値の創出にもつながりにくい。そこから脱却して、全社で推進するにはどうすればよいのか。現場社員の課題意識から、それらを検討するワーキンググループが立ち上げられたのです。話し合っていたのは、土台となる取り組み方針と、社員が生成AIを安全に使える環境の整備、ソフトウェア開発への生成AI活用について。私はそのときのメンバーでもありました。

身振りを交えて話す石田氏
東芝テック株式会社
経営企画部 経営推進室 室長 (業務改善PMO) 石田 秀吾氏

宮坂 ワーキンググループで東芝テックにおけるAI活用のアウトラインは定まったものの、それを実行に移し、現場へ定着させるには、部門を超えた連携・協力体制が不可欠なことも分かってきました。技術、IT基盤、業務、人財、顧客接点、情報発信をつなぐ「集約装置=Hub」となる組織です。ただ組織を立ち上げること自体が目的ではなく、各部門で生まれた実践や学びを全社で共有できる形にし、業務の変革と新たな顧客価値につなげるための推進基盤として組織を設計しました。

私自身、外資系IT企業でAIに関わってきた経歴がありますが、AIの技術者、社内ITの専門家、業務改善推進の担当者、人財育成の担い手、お客様との接点がある事業部、社内外への情報発信のプロ経営陣の後押しもありそういったメンバーを、PMOとして迎え入れることができ、2024年秋に活動を開始しました。

個別の挑戦を、会社の変革へ。異なる専門性が集まった理由

──本当にさまざまな部門から多様な人財が集結したのですね。誘われた側としてはいかがでしたか?

青島 社内のIT基盤を整える部門の人間として、とてもいいタイミングで声をかけてもらえたと思っています。その気になればどこまでも自由に、さまざまな使い方ができるのがAIの魅力ですが、それによってセキュリティやガバナンスが脅かされる事態は避けなくてはなりません。だからこそ、当社にとって最適なルール作りに取り組む良い機会になりました。

身振りを交えて話す青島氏
東芝テック株式会社 IT戦略システム部 ITソリューション推進室 シニアエキスパート (社内ITPMO) 青島 克彦氏

関根 私は、生成AIに関する技術動向を調査し、ユーザーのニーズに合った技術を提言して、その技術を使いこなすための支援をする役割を担っています。私自身、生成AIがこれだけ普及する以前からAIの研究開発をしていましたが、技術者としては、技術を本来求められている価値にきちんと結びつけることがもっとも重要だと考えています。各部門の実態や困りごとを生の声として聞くことができ、様々な役割をもつメンバーと連携しながら、すぐに行動に移せる組織に参加できたのは、大いに意義のあることだと感じました。

身振りを交えて話す関根氏
東芝テック株式会社 ソフトウェア開発センター ソフトウェアCoE担当 グループ長 (エンジニアリングPMO) 関根 真弘氏

──当時の事業部門における生成AIの活用状況はどのようなものだったのでしょうか?

丹野 私は東北支社でPOSシステムの営業活動をサポートしていたのですが、当時はまだまだ手探り状態の人が多かったですね。ただ、大いに話題にはなっていましたし、私としても「今後、仕事のあり方を大きく変えることになるはず」という強い予感がありました。知識を教わって自分でも実際に使ってみながら、支社の仕事や営業活動に取り入れる日々でした。その結果、お客様と「これからの店舗」「これからの働き方」といった未来の話をできるようになったことが、強く印象に残っています。

身振りを交えて話す丹野氏
東芝テック株式会社 リテール・ソリューション事業部 セールスストラテジーセンター セールスプランニング部 営業企画担当 スペシャリスト (スキルアップPMO) 丹野 晃一郎氏

坪井 その頃私はお客様先に出向しており、生成AI活用推進担当のようなポジションを任されていました。正直、AIについては専門外だったため、必死で勉強しながらなんとか対応していた記憶があります。なかなか大変ではありましたが、丹野さんの言うように生成AIがお客様企業にとって大きな可能性を秘めた技術であることは実感できました。出向から戻ったタイミングで、生成AIの商材化推進メンバーとしてこのPMOに誘っていただき、お客様と一緒に悩みながら実践してきた経験が生かせるならと参加を決めて今に至ります。

身振りを交えて話す坪井氏
東芝テック株式会社 リテールソリューション事業部 ビジネスソリューションセンター ソリューションエンジニア部 (商材化PMO) 坪井 杏奈氏

──AIによって東芝テックという会社が提供できる価値も変わっていくということでしょうか。

齋藤 変わっていくというより、これまで培ってきたお客様の現場理解にAIを掛け合わせ、新しい価値を提供できるようになっていく、いきつつあるということですね。「POSシステムの会社」という印象をお持ちの方は多いと思います。もちろん、それは当社の大切な強みです。一方で、現場を知る力、データ、運用の知見にAIを活用することで、お客様における経営課題の解決までを支援できる会社へと進化しつつあります。その変化を社内外に具体的に伝えていくことが、マーケティングメンバーとしての私の役割だと考えています。

身振りを交えて話す齋藤氏
東芝テック株式会社 経営変革推進部 マーケティング戦略室 (マーケティングPMO) 齋藤 翼氏

2年の歩みが変えたもの

──TEC AI Innovation Hubが活動を開始してから、約2年が経とうとしています。以前と比べて、どのような変化を感じていますか。

石田 まず、生成AIというものに対する理解が社会全体で進んできましたよね。社内においても、生成AIを使っていこうという機運は着実に高まっています。各部門で業務内容を聞いて一緒に簡単なAIエージェントを作ってみると、「こんなこともできるのですか」と、非常にいい反応が返ってきます。そうなると次は「実はこんなことでも困っていて」と課題を話してくれるようになり、さらに「だったらこんなエージェントを作ればいいのか」と自分で動けるようになっていく。先日は社内で自作AIエージェントのコンテストを開催したのですが、営業、SE、人事などさまざまな部門から70件もの応募がありました。

様々な発話を行う、座談会参加者の図。

青島 質問を投げれば答えが返ってくるチャット機能だけでも便利なため、当初はそこで活用が止まっていた人も多かったです。ただ、エージェントを作って業務改善に役立てられるようになると、一気にレベルが上がる。「自分の仕事を変えてくれるもの」という意識が浸透してきたのは大きな前進だと感じています。

和気あいあいと様々な発話を行う、座談会参加者の図。

──なるほど。現場の実感としてはいかがでしょうか。

丹野 同感です。私も石田さんに直接教えていただいて「なるほど!」と感動したクチです。的確な指示(プロンプト)を作れれば、アウトプットはまるで違ってくる。想像していたよりも、ずっと多くのことを任せられるエージェントになってくれる。そして何より、そんなエージェントを自分で作れる自信がつく。大げさでなく、本当に「心が動く瞬間」なんです。私は身をもって体験できたその感覚を他の人に伝え、またその人から周囲の人へと伝えてもらって、AI活用の輪を広げていく活動を続けてきました。

和気あいあいと様々な発話を行う、座談会参加者の図。

坪井 商材化チームとしてお客様と接している感覚ですが、この2年間で生成AIを導入する企業は右肩上がりで増えてきています。ただ、かつての当社と同様に「導入したけれども使いこなせていない」という状態にあるお客様が多くいらっしゃいます。そのため当社にご相談をいただいたときは、まず「何に困っているか」を洗い出すワークショップを提案しています。業務課題を整理してから、その解決のために生成AIをどう活用するかを考える。我々が社内でたどってきた「課題を見つけ、試し、検証し、改善する」というアプローチを、お客様向けの支援として提供できるフェーズに入ってきました。

発言する坪井氏を見つめる参加者

東芝テック×AIがひらく未来

────AIそのものが一般化するなかで、東芝テックだからこそ提供できる価値は何でしょうか。

宮坂 当社は店舗からオフィスまで、さまざまなタッチポイントを通じてデータが生み出される現場に長年向き合ってきました。お客様とともに、その活用について考え続けてきた歴史があります。

AIの力を借りることで、その価値はさらに大きなものになるはず。私たちは、お客様の現場を理解し、業務や運用の中に無理なくAIを組み込み、使い続けられる形で新しい価値を提供していくこと。それが、東芝テックらしいAI活用だと思っています。

笑みを浮かべながら説明する宮坂氏

関根 ただ、そのためにはまず社内が変わっていかなくてはなりません。ここまでのTEC AI Innovation Hubの活動は実を結びつつありますが、ノウハウや知識が属人化している点など、まだまだ改善できる課題も多いです。自分たち自身がAIを使いこなし、確かな変革を遂げてこそ、お客様にも自信を持った提案ができるはずです。

TEC AI Innovation Hubが目指す姿を表した図

──最後に、TEC AI Innovation Hubが目指す組織の姿と、その先にお客様へ届けたい価値を教えてください。

宮坂 現在は活動を加速させるフェーズ。現場への活用促進を通じて、AI活用を会社全体に広げています。そして、本当のゴールは、私たちPMOチームが活動を主導し続けることではありません。私たちの支援がなくても、それぞれの現場が自ら課題を見つけ、生成AIを使って改善を続けられる状態です。社員の誰もが生成AIを仕事の相棒として使いこなし、価値を生み出し、お客様と共に変革の担い手となっていく──そこまでにはもう少し時間が必要だと思いますが、TEC AI Innovation Hubの仲間や各部門の協力を得ながら、ぜひともそんな未来を実現させたいですね。

座談会中の参加者全員が着席している画像。

AIが当たり前となり、その活用のあり方が企業の競争力を左右する今、問われるのは、AIを業務の変革と顧客価値へどう結びつけるかです。東芝テックは、部門を越えた社内実践を通じて、その仕組みをつくり始めています。そこで生まれた変化は、どのようにお客様の課題解決や流通・小売業界の新たな価値へつながっていくのか。

今後、TEC AI Innovation Hubのより具体的な活動について深掘りしていく本シリーズで、ぜひご覧ください。

東芝テック AI活用の取り組み
https://www.toshibatec.co.jp/company/dx/aihub/

Toshiba Tec Group Philosophy Creating with You ともにつくる、つぎをつくる