「デジタル化・AI導入補助金」で進める店舗の省力化と効率化

国内外流通トピックス

デジタル化・AI導入補助金ロゴのイメージ画像

中小企業の現場では、レジ業務や売上集計、在庫管理、勤怠管理など、日々の業務に多くの時間が割かれています。飲食店では注文や会計のミス、小売店では在庫や売れ筋の把握など、業種は違っても課題は共通しています。 こうした業務負担を軽減し、生産性を高めるための制度が、2026年4月に再スタートした「デジタル化・AI導入補助金」(旧IT導入補助金)です。登録IT導入支援事業者と連携しながら、店舗に合ったITツールを導入できる仕組みが特徴です。本稿では、飲食店・小売店を含む多くの企業が利用する「通常枠」を取り上げます。

まずは効果が出る機器を選ぶこと

デジタル化・AI導入補助金では、導入後の改善状況を数値で示すことが求められています。労働生産性を1年後3%、3年間は年平均3%以上向上させることです。具体的には業務時間の削減など、効果を確認できるデータを提出する必要があるため、データが取得しやすく、業務改善につながりやすいツールを選ぶことが重要です。

この補助金では、申請できるITツールが「業務プロセス」に基づいて分類されています。図表1は、その業務プロセスごとにどのようなITツールが対象になるのかを整理したものです。

<図表1>デジタル化・AI導入補助金2026(通常枠)の対象となるITツール

デジタル化・AI導入補助金2026(通常枠)の対象となるITツール
業務プロセスなど ITツール
顧客対応・販売支援 予約管理、セルフオーダー、チャットボットなど
決済・債権債務・資金回収 POSレジ、券売機(キオスク)、販売管理、売上管理、発注管理、仕入管理など
供給・在庫・物流 在庫管理、入荷管理など
会計・財務・経営 会計システム
総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情シス・統合業務 勤怠管理、シフト作成、給与計算、人事管理、総務人事、教育、eラーニングなど
業種固有(飲食業、小売業)

汎用・自動化・分析ツール

RPA、ファイルの保管・共有・共同編集、オンラインストレージ

ITツールは、補助金サイトのITツール検索を用い、飲食店や小売店が導入しやすいものを著者が抽出して作成した。「業種固有」は、顧客対応や決済など既存の業務プロセスに分類されているため、空欄とした。太字は本文で紹介しているもの。

農林水産省・厚生労働省の「省力化投資促進プラン」では、飲食業の課題を調理・接客・店舗管理の3工程に整理しており、特に注文・会計・売上管理・勤怠管理といった日々の運営業務の負担が大きいとされています。これらの業務は小売業でも共通する部分が多く、同じ考え方で効率化を進めることができます。

スマートレジシステム導入の説明画像
  • モバイルオーダー・セルフレジの導入

注文や会計のミスが起きやすい業態では、モバイルオーダー(セルフオーダー)やセルフレジ(POSレジ・券売機)、販売管理システムの導入が推奨されています。

注意点としては、前述したように導入後の効果を数値で示す必要があるため、POSレジや券売機は、導入前よりも機能が追加されているほうが採択されやすい傾向があることです。売上分析機能の強化やクラウド連携、キャッシュレス対応の拡張などが、業務改善につながります。

POSは売上データや客数などの情報が取得しやすく、効果報告にも活用しやすい点が特徴です。券売機も同様に、販売数や客数などのデータを自動で取得できるため、導入後の効果を数値で示しやすいツールです。

  • 売上管理・販売管理のシステム化

手書き伝票やExcel入力を続けている場合、販売管理に該当するITツールを導入すると、注文・会計・売上データが自動集計され、日次締めや経理処理の負担が大幅に軽減されます。

  • 勤怠・給与・人事管理の効率化

飲食・小売は従業員の勤務形態が多様で、勤怠管理や給与明細の配布に手間がかかります。人事管理ツールを導入すれば、勤怠データとの自動連携やオンライン明細の配布が可能になり、バックオフィスの省力化が進みます。

  • その他の効率化システム

予約管理システムは、来店予測や回転率の改善につながり、機会損失の削減にも効果があります。予約データを活用することで、混雑時間帯の最適化やスタッフ配置の調整など、運営面での改善が期待できます。

在庫管理システムも、廃棄ロスの削減や棚卸作業の効率化など、数値で示しやすい効果が得られます。

このように、データが取得でき、業務改善につながる機器を選ぶことが、制度を効果的に活用するための第一歩になります。

補助金の中心は「100万円以下」

補助金のイメージ画像

補助金は、図表2の通り「1〜3プロセス」で最大150万円が基本です。プロセスとは、図表1に示した「業務プロセスなど」の区分を指します。

たとえば、POSレジを導入する場合は「決済・債権債務・資金回収」の1プロセスに該当します。人事管理システムを導入する場合は「総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情シス・統合業務」の1プロセスに該当します。両方を導入すれば2プロセスとなります。

なお、POSレジや券売機は、図表2の対象経費である「導入関連費」を含めたシステム一式が補助対象となります。ITツールは補助金サイトの「ITツール検索」で確認できます。「POS」と入力して検索すると、「ART/POS-i」などの登録ツールが表示されます。「ART/POS-i」は、レジ本体とPOSソフトを含むPOSレジシステムです。店舗販売業務の省力化だけでなく、来店履歴や売れ筋分析など、販売促進にも活用できます。

また、「IT導入支援事業者」から事業者を選んで探すこともできます。

なお、4プロセス以上では最大450万円になりますが、実際の採択結果では100万円未満の小規模導入が中心となっています。

<図表2>支給内容

支給内容
対象 支給額 対象経費 上限
1~3プロセス 経費×1/22/3(地域別最低賃金帯の従業員が30%以上の月が3カ月以上ある場合) ソフトウェア購入費、クラウド利用費(クラウド利用料最大2年分)、導入関連費 150万円
4プロセス以上 450万円

詳細:https://it-shien.smrj.go.jp/

https://it-shien.smrj.go.jp/pdf/it2026_koubo_tsujyo.pdf(公募要領)

2つの目標を設定・実行する

給与明細に右上がりが乗った矢印のイメージ画像

デジタル化・AI導入補助金の公募は図表3の通り、5月から毎月、合計で7回行われる予定です。申請するときに必要なのは、次の2つの目標を設定し、実行する必要があることです。

1.賃上げ率:初回3%以上、過去利用者3.5%以上(強化)

2.労働生産性:1年後3%、3年間年平均3%以上の向上(継続)

特に大きな変更点は、「初回利用者にも賃上げ目標が義務化された」ことです。最低賃金は毎年3.5%以上上昇していますが、賃上げ率3.5%は給与総額ベースのため、全従業員の給与を底上げする必要があり、負担は小さくありません。

加えて、150万円以上の補助金を希望するのであれば、最低賃金+30円以上の賃上げの目標を設定する必要があります。これは新設された目標です。

               <図表3> 公募スケジュール

公募スケジュール
開始 締切
1 2026年331 5月12
2 6月15
3 7月21
第4回 8月25

2024年度、2025年度はともに7回募集があった。

登録IT事業者は慎重に選ぶこと

登録IT事業者を慎重に選ぶときのイメージ画像

デジタル化・AI導入補助金は、申請が初めてでも安心できるように登録IT導入支援事業者を通じて行うことになっています。このIT事業者は、機器メーカー、システム会社、販売代理店だけではなく、コンサルタント会社など幅広い事業者が登録できます。

この仕組みは便利である一方、同じような目標設定をしている申請書が大量に提出され、実態と申請内容が一致しないケースが問題になりました。そして、このような不正に関与したIT事業者は登録抹消となりました。

制度全体として不正防止の取り組みが強化されているため、申請者側も補助金の返還が求められる可能性があります。「不正であることを知らずに関与した場合でも誓約書の提出が必要」とされており、利用者側もリスクを負う可能性があります。信頼できる事業者を選ぶことがこれまで以上に重要になります。

事業者を選ぶ際のポイントとしては、導入実績が十分にあるか、申請内容を店舗ごとに個別に作成しているか、効果報告までサポートできるか、契約内容や費用が明確か、不正リスクが低いかなどが挙げられます。特に、ヒアリング内容を反映して申請内容を作成してくれるIT事業者は、実態に沿った申請ができるため安心です。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー  
代表取締役 毛利英昭

  • 当記事は2026年5月時点のものです。
    時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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