コスト高と採用難に悩む飲食店、打開策は「DX」にあり
国内外流通トピックス
現在、飲食店の多くが原材料費や光熱費の高騰、人件費の上昇などのコストアップにより、経営環境の悪化に直面しています。中には倒産や廃業の危機に瀕している飲食店も少なくありません。
近年、そうした危機を打開するために、飲食店業界全体で注目を集めているのがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。DXは、単なるデジタルツール導入(デジタル化)と混同されがちですが、本質はそこではありません。重要なのは、デジタル技術の導入によって、飲食業というビジネスそのものを変革することです。
飲食店業界の現状は、人手不足の深刻化や顧客の多様化、非接触型のサービスへのニーズの高まりなど、容易には解決できない多くの課題に直面しています。DXはそれらの課題を解決し、持続可能な経営を実現するための重要な手段だと言えます。
飲食店におけるDX導入の主な目的と、そのために活用できるシステム
飲食店のDX推進分野を業務別にリストアップしました(表1参照)。以下にそれぞれのデジタルツールについて、簡単な説明を加えていきます。
〈表1〉 飲食店でデジタル化できる主な業務
| 業務 | デジタルツール |
|---|---|
| 注文・会計 | モバイルオーダーやセルフオーダーシステムの導入 |
| キャッシュレス決済(クレジットカード、電子マネー、QRコード決済など) | |
| POSレジの導入 | |
| 予約・顧客管理 | オンライン予約システムの活用 |
| CRM(顧客関係管理)や顧客管理システムの導入 | |
| 顧客データの分析による販売促進 | |
| 集客・販促 | SNSやLINE公式アカウントなどの集客ツールの活用 |
| クーポンのデジタル配信 | |
| グルメサイトの活用 | |
| 店舗運営・バックオフィス | 売上管理システム |
| 在庫管理システムや発注システムの | |
| 勤怠管理・シフト調整システム | |
| 配膳ロボット |
注文・会計
- モバイルオーダー/テーブルオーダーシステム
顧客が自身のスマートフォンやタブレットで注文を行います。 - POSレジシステム
売上データや在庫管理、予約管理などを効率的に行います。伝票処理を自動化し、レジ締めや販売データの記録・集計・分析を可能にします。 - キャッシュレス決済システム
電子マネー、クレジットカード、交通系ICカードなどに対応し、会計業務を効率化します。
予約・顧客管理
- 予約管理システム
リアルタイムで空席を管理し、ダブルブッキングを防止します。 - 顧客管理システム
顧客の利用履歴や来店履歴を蓄積・分析し、パーソナライズされたサービスの提供を可能にします。
集客・販促
集客・販促のデジタルツールでは、日本人口の70%以上が利用するLINEを通じた情報発信が高く支持されています。メッセージの開封率が高く、クーポン配信などでリピーター獲得につながります。
店舗運営・バックオフィス業務
- 在庫管理システム
発注の自動化や発注ミスの軽減、リアルタイムでの在庫把握を可能にします。 - 勤怠管理システム
スタッフのシフト調整や管理、勤務時間管理を効率化し、人的ミスを減らします。 - データ分析ツール
売上データ、顧客データ、メニューの売れ筋などを分析し、経営戦略に役立てます。 - フロアサービスロボット
料理の配膳や下げ膳を行い、従業員の負担を軽減し、生産性を向上させます。
飲食店がDXを導入・推進することで期待できるメリット
飲食店のデジタル化によって期待される主な効果をまとめました(表2)。
〈表2〉 飲食店のデジタル化による効果
| 効果項目 | 具体的な効果 |
|---|---|
| 業務効率化 | ヒューマンエラーの削減 |
| 作業時間の短縮 | |
| スタッフの負担軽減、人手不足の解消 | |
| 顧客満足度の向上 | 待ち時間の削減 |
| 非接触サービスの提供 | |
| パーソナライズされたサービスの提供 | |
| 経営の最適化 | コスト削減 |
| データに基づいたマーケティング戦略 | |
| 売上の向上、リピーターの獲得 |
業務効率化
業務の効率化を促し、人手不足の解消、人件費やフードロスの削減、人的ミスの軽減といった効果が期待できます。重要なのは、業務の効率化がコストダウンに結びつくということです。
顧客満足度の向上
待ち時間の短縮、パーソナライズされたサービスの提供、非接触サービスの実現といった効果を発揮します。
経営管理精度の向上
データ分析による経営判断の精度向上。厳しい競争環境における優位性の確保、変化への対応。
集客力強化
データに基づいた効果的なマーケティングの実践、新規顧客獲得。
売上増加
新たな商品・サービスの提供、回転率の向上、集客力増強、再来店促進。
データに基づいた新メニューの開発
メニューの売上傾向を分析し新しいメニューを考案。
DX導入・推進に際しての注意点
DXを導入する際には、以下のような点に注意が必要です。
■導入準備のための費用負担
ネット環境の整備や端末購入費などの初期投資
■DX運用のための適性・適応力を備えた従業員の存在
デジタルツールへの拒否反応や使いこなせないケースもあります。
■サービスが無機質になる可能性
早急なデジタル化は接客や気配りを損なわせ、顧客満足度が低下する場合も。
■デジタル化自体が目的になりやすい
目的意識が曖昧だと失敗しやすい。
■導入したシステムを使いこなせないケースが少なくない
費用対効果が見えにくくなります。
飲食店のDX推進事例
最後に飲食店のDX推進で成功した2つの事例をご紹介します。
人気チェーンが導入して成果を挙げたタブレット型のセルフオーダーシステム
A社は、リーズナブルな価格でバラエティ豊かなメニューを提供する人気店を多数展開しています。同社では以前から、メニュー画像付き端末の導入を検討していました。しかし人手不足による接客サービスの低下という懸念があり、また導入コストやスペースなどの問題にも悩んでいました。
そこで熟考の末、セルフオーダーの導入を決定しました。結果は予想以上の効果に結びつき、従業員が以前に比べ数名少ない状態でも営業できるようになりました。その上、従来はどうしてもゼロにすることができなかった「聞き間違いによるオーダーミス」が解消されたといいます。
また、新人スタッフのオーダートレーニングに時間がかかった上、オーダーミスも発生していましたが、セルフオーダーの導入後は、トレーニング時間が減少し新人でも即戦力につながる大きな効果が得られました。
同社が導入したセルフオーダーシステムでは、店舗のタブレット端末がメニューブックになっています。画面が大きくて見やすいので、オーダーもストレスなく操作できます。お客様のスマホを利用するサービスもありますが、やはり使い勝手はタブレット型が勝りお客様に好評とのことです。
モバイルPOSで2号店の遠隔売上管理に成功
ある人気店のオーナーシェフが、2号店を出店しました。メニューの品質と売上を管理しなければならないため、当初はほぼ毎日、新店に出向いていました。オーナーシェフとしてはかなりのハードワークです。
そこでモバイルPOSを導入してみると、遠隔で売上管理ができるようになり、新店オープンの3ヶ月後には、週に2回ほど様子を見に行く程度になったといいます。
モバイルPOSを導入したことで、インターネット上で売上管理ができるようになりました。それによって、売上状況に合わせた仕込み量や発注調整が可能になりました。今では、日常的に売上を確認し、的確な指示を出す毎日です。
また、モバイルPOSの売上分析機能を活用することで、新しいメニューの売上傾向を的確に把握することが可能になりました。分析により、新メニューが売れる期間はおよそ3週間程度と分かりました。それを過ぎると、売上が落ちるか定番化するかが分かれます。そこを見極めることで、的確なタイミングでメニュー変更を行うことができるようになりました。
(文)流通ジャーナリスト 渡辺米英
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
- 当記事は2026年2月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。