宅配ピザ業界をリードする「AI連動エンジン」の価値

国内外流通トピックス

AIを活用しているイメージ画像

米国のピザチェーンA社は、AIを部分的な便利ツールとしてではなく、注文予測から調理、配達、店舗開発までをAIでつなぐ仕組みを構築しています。本稿ではこれを「AI連動エンジン」と呼びます。 その結果、顧客が体感する「受け取り時間の正確さ」と、店舗が得る「運営効率」が同時に改善され、宅配ピザ業界の中で突出した競争力を生み出しています。

米国の宅配文化と利用シーン

米国の宅配文化をイメージした画像

米国では、年代を問わず宅配を頼みたくなる瞬間がはっきりしています。まず雨の日、そしてNFL(アメリカンフットボールの最高峰リーグ)やNBA(プロバスケットボールリーグ)の試合を家で観たいときなど、イベント前に宅配を頼む文化が根づいています。 
平日の夜、子どもの宿題や習い事で夕食を作る余裕がないときや、週末の家での映画鑑賞で、上映開始までに食事を揃えておきたいときにも、よく使われます。 
そんなときに頭に浮かぶのが宅配ピザ、ハンバーガーやチキン、タコスといったファストフード、そして各社の宅配アプリを使った中華料理やタイ料理、メキシカンです。ファストフードはドライブスルー中心ですが、「家から出たくないとき」には宅配アプリもよく使われます。 
ちなみに米国人は、週に1〜3回ファストフードを食べていて、若年層だと週3〜4回食べるのが一般的です。平日の夜は共働き率が高く、子どもの習い事も多いことから、「作らない」ことが一般的で、仕事からの帰宅途中にファストフードのドライブスルー(売上の60~70%を占める)に寄るのが生活の一部になっています。 

宅配は「時間勝負の競争」

宅配ピザをイメージした画像

米国の宅配は、「今日はどこのピザを頼もうかな」という競争ではなく、どこが速くて、品質が安定しているかという「時間勝負の競争」になっています。宅配の中では中華料理やファストフードが強いものの、宅配ピザの中ではA社が圧倒的1位で、他のチェーンを大きく引き離しています。イベント前の大量注文にも強いことで知られています。 
A社の設立は1960年で、配達と持ち帰りの両方で事業を展開してきました。創業当初から「30分以内に届ける」というスピードを武器にし、宅配の即時性をブランドの中心に据えてきました。 
現在は世界最大のピザ会社であり、90以上の国に2万店舗以上を展開し、ほとんどが独立系フランチャイズオーナーで構成されています。米国では2023年に「ピンポイントデリバリー」という新技術を発表し、公園、野球場、ビーチなどでも受け取れるようになりました。アプリ上でGPSを使って受け取り地点を指定する仕組みで、配達の柔軟性が大きく広がっています。 
2025年には、米国での小売売上の85%以上をデジタルチャネルが占めるようになり、アプリやウェブ注文に加えて、音声AIによるパーソナライズ戦略を進め、話しかけるだけで注文できる仕組みなど、注文手段を広げています。 

2回の危機と技術による再成長

危機と再成長をイメージした画像

 A社は、いつも順調だったわけではなく、これまで2回の危機がありました。
まずは会社が成長するにつれて、注文と顧客の期待を管理する複雑さが増し、2007年には評判が大きく落ち込み、ブランドの刷新が避けられなくなりました。
2008年には、顧客に注文の進行状況をリアルタイムで表示するオンライン機能「トラッカー」を導入しました。スマートフォンで「注文が受け付けられた→作っている→オーブン→配達準備→配達中→完了」までの進行状況を確認できるようになりました。
いまでは多くの業界で使われている「進行状況の可視化」を、最初に導入したのがA社なのです。今日のAI基準では基本的な仕組みですが、これを機に顧客は受け取り時間を予測できるようになりました。
それ以来、店舗の最適化、予測の改善など、数え切れないほどのアプリケーションにAIを統合してきました。
しかし競争環境は厳しく、2017年には再びブランドイメージが低下しました。そこで、配達市場へのアプローチを技術で強化し、注文予測や店舗オペレーションの最適化を進めたのです。その結果、3年後の2020年には株価が99%上昇しています。この他、次の2つの効果もあります。詳しくは次項で説明します。
・製品品質向上 —— AIツールにより店舗の製品品質が15%向上
・配送時間短縮 —— 予測モデルにより配送時間を20%短縮

業界初の「AI連動エンジン」へ進化

AI連動エンジンをイメージした画像

A社のAIは、店舗運営のあらゆる工程をデータで結びつけ、注文予測から調理、配達、店舗開発までを一体で動かす「AI連動エンジン」へと進化しました。中核となるのは次の4つです。 
1.注文予測 
過去の注文履歴、天候、地域イベント、曜日、時間帯などを組み合わせて、店舗ごとの需要を予測します。これにより、どの時間帯にどれだけ注文が入るかだけでなく、特定メニューの需要や必要な食材量まで把握でき、廃棄を最小限に抑えた在庫管理が可能になります。従来の経験則による在庫管理では難しかった最適化を、AIが実現しています。 
2.予測調理
注文が入ってから作るのではなく、予測に基づいて「作り始めるタイミング」を調整します。ピーク時には、注文が入る前に生地を伸ばし、具材を準備し、オーブンの稼働を最適化することで、待ち時間を短縮します。 
調理開始のタイミングが在庫予測と同期している点が特徴です。 
さらに、AIカメラやスマートスキャナーを活用し、ピザが品質基準を満たすようにしています。焼き上がったピザを、基準となる外観データと照合し、形・焼き色・具材の配置を自動でチェックすることで、大規模でも一貫した品質を保てるようになりました。 
3.配達のルートとタイミングの精度向上
配達員の位置情報、交通状況、店舗の調理進行を組み合わせて、最適な配達ルートと出発タイミングを算出します。これにより、配達時間のばらつきが減り、「受け取り時間の正確さ」が向上します。 
4.店舗運営・店舗開発の最適化
店舗運営では、需要予測に基づいてスタッフ配置や材料準備を時間単位で最適化し、ピーク時の混雑を抑えています。 
さらに、店舗開発では、地域ごとの需要予測や交通データを分析し、どの場所に、どのタイミングで新店舗を出すべきかを判断しています。これにより、チェーン全体で「注文→調理→配達→店舗配置」が時間軸で連動し、運営効率と顧客体験を同時に高めています。 
同業他社がAIを使っているのは注文受付やキッチンロボット、おすすめ商品の提案など部分的です。A社だけが「AI連動エンジン」であり、 
1.配達の遅れが減り、リピートが増える 
2.ピーク処理能力が上がり、売上の天井が上がる 
3.配達距離が短いために、店舗あたり売上が増える 
という3つの大きな効果を生み出しています。 
 
いまではどの業界のアプリにも当たり前に導入されている「トラッカー」や部分的なAI活用ではない連動したシステム化など、システム機能を探求してきたA社の取り組みに、IT、AIが企業成長を支える重要なファクターであることにあらためて気付かされます。 

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代 
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー 
  代表取締役 毛利英昭 

※ 当記事は2026年7月時点のものです。
 時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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