ライフスタイルとは? 「TPOS」のSが最重要なワケ
国内外流通トピックス
ライフスタイルは、直訳すれば、"生活様式"と言い換えることができます。小売業にとってこのライフスタイルという概念は、この上なく重要です。
チェーンストアの世界では「TPOS(ティーピーオーエス)」という言葉がたびたび使われます。
一般的に世の中で語られる「TPO(ティーピーオー)=Time(時間)・Place(場所)・Occasion(場合)」というワードに、この「Life Style」の「S」が加わったのが、「TPOS」という言葉です。
では"時と場合をわきまえて"というような意味で使われる「TPO」に、なぜ「S」が加わったのでしょう?
「TPO」以上に重要な「S」 新しいライフスタイルを考える
コロナ禍は、私たちの生活に大きな変化をもたらし、“ライフスタイル=生活様式”がこれほど変化した時期はなかったのではないでしょうか。
コロナ禍で、これまで普通に行われてきた通勤や通学、旅行やレジャー、あるいは通勤帰りの同僚との飲酒がすっかりなくなるか、激減しました。
同時に在宅の時間が長くなり、自宅でパソコンを通じてリモートワークをしたり、外食を控え家庭内で調理をする機会が増えたりと、生活様式が大きく変化したのが、このコロナ禍でした。
この頃、以下のようなことが家庭で起きていました。例えばリモートワークが始まり自宅にパソコンはあっても、書斎はなく新たに仕事のスペースが必要になったお客様も多かったと思います。
ひと昔前であれば近くのホームセンターに行き、金属製のグレーの事務机と折りたたみイスを購入し、それで間に合わせたものです。
しかしそのお客様の自宅がきれいな木目調の床材のフローリングで、室内の家具も木目調が多く、またリビングに緑を多く飾ったような部屋であれば、この事務机と折りたたみイスの組み合わせは、お客様の好みにも全くと言っていいほど合っていません。
ここでいくつかの事例を紹介させていただきます。
リモートワークが増えたお客様は、家具店などのホームページを探していたとします。
そこに「天板に天然木(パイン材)とスチールの組み合わせのヴィンテージ家具シリーズ」を見つけたとします。
枠組みにスチールは使われていますが、天板はブラウンでパイン材の木目がきれいに表われており、部屋の雰囲気とピッタリです。
イスも机の天板と同じ色の背もたれが付いたものがセットになっています。しかも机・イスセットで2万数千円ほどと値頃です。
お客様はパソコンでその商品をHP上のカートに入れ、クリックして購入を決めました。
別のお客様のご自宅は現代風の高層マンションで、家具はモノトーンの色調のものが多く、余分な装飾などがないすっきりした部屋で、子どもたちと生活しています。
この空間には金属製のグレーの事務机と折りたたみイスは全くマッチしません。
そこでお客様は家族連れで家具の大型店を訪れます。すると店内で気になる商品を見つけました。
黒茶色の天板の机に書棚が組み合わされたセット家具で、書類などの収納スペースもあり、子どもが書類をいじる心配もありません。値段も3万円ほどと手頃です。
店内のディスプレーには机に色が似た椅子がセットされていて、これも数千円で販売しているので、机と合わせても大きな金額ではありません。
お客様はこの机とイスを一緒に購入し、車で持ち帰り、短時間で子どもと一緒に楽しく組み立て、月曜日からのリモートワークに対応することができました。
このように現在の消費者の生活はお客様の嗜好、趣味、家族構成や家の事情などで、暮らしぶりは極めて多様になっています。
昔であれば「机とイスがあって仕事がスムーズにできれば……」と考えたかもしれません。
つまり今のお客様は、「TPO」だけでなく “S=ライフスタイル”の要素、すなわち自分のライフスタイルにマッチした商品でなければ満足できないのです。
ウッド調の家で自然の中にいるような生活を楽しむ人も、現代的でスタイリッシュな生活を家族で営む人も、どこの事務所にもあるようなグレーの事務机や折りたたみイスでは満足できません。
ライフスタイルは、お客様が商品を選択する際の最重要な要素なのです。
ライフスタイルが “増え”“選択できる”豊か
今、提供されるライフスタイルの種類が “増え”、さらに機能面でも、趣味・嗜好などの点でも自分なりに満足できる生活を誰もが “選択できる”ようになりました。
しかも、大型店では、たくさんの商品を比較しながら、手の届く価格で選ぶことができるのです。
このようにライフスタイルの種類が増え、お客様の選択肢が増えたことを“生活が豊かになった”といいます。
ここで多様なライフスタイルが提供され、豊かな生活に結び付き、それを多くの生活者に実感してもらうためには、2つの条件が必要になります。
1つ目は、単品訴求ではなく“コーディネート販売”がなされていることです。既述のような家具の場合なら、最低限、色やスタイルが整った机とイスがそろって購入できなくてはなりません。
しかも素人のお客様がその場で見て選べば、必ず調和がとれるような売場を準備しておく必要があります。
2つ目は、そろえて買うには安価、値頃な価格でなくてはならないことです。衣料品なども1着が何万円もするのでは、TPOSの異なる数多く商品を、さまざまなライフスタイルに応じて使い分けることはできません。
例えば、働く女性向けのウェアで考えてみましょう。きちんと見えていながらラクな着心地で、リモート会議に最適のワンピースや、家の中で家事を快適に過ごせる8分袖の商品を提供する店があります。
在宅勤務が多くなった男性に向けても暖かく、縦にも横にも伸びて着やすく、自宅で洗ってもシワになりにくい機能性を重視した部屋着が販売されています。
このようなライフスタイルに合致した商品の特徴は、「ワンピース」「パンツ」といった旧来の品種分類ではなく、商品や用途、機能が細分化されTPOSが明確化されていることです。
“誰にでも” “どこでも”という汎用的な商品では、無駄な機能が多かったり、欲しい機能がなかったりして、お客様の使う立場、着る立場に立つと便利とはいえないでしょう。
ライフスタイルを細分化し「TPOS」にジャストフィットした商品こそが、お客様の心をつかみます。
逆に言えば、「TPOS」を明確にできた、安く、そろった商品をお客様が点数購入し使い分けができるからこそ、暮らしの豊かさが実感できるといえます。
新しいライフスタイルの商品を核カテゴリーに成長させる
食品でも大きな変化が見られます。国民食であるカレーひとつをとっても、趣味、嗜好や行動などのライフスタイルに合わせて、豊かで多種、多様な選択肢が提供されるようになりました。
リモートワークが増え通勤時間が減り、時間に余裕ができたアウトドア好きの人は、近くのこだわりスーパーマーケットでクミン、コリアンダー、チリなどの香辛料を購入しルーから手作りのキーマカレーを作ることもあるでしょう。
こうした“手作り派”のライフスタイルを持つ人は増えたはずです。
仕事が忙しく十分な料理の時間が取れなかったお母さんやお父さんも、子どもの好きなナショナルブランドのいつものカレールーと、少しだけ時間短縮のためにレトルトのカット済み野菜を使って、いつもより短時間でカレーを作って子どもたちを喜ばせることができます。
「働きながらでも簡単に手作り」というライフスタイルは満たされます。
毎日の通勤に疲れてしまった若い女性なら、外食チェーンで自分の好きな辛さのカレーライスをテイクアウトで購入し、自宅でリラックスしてくつろぐこともできます。
「食事は簡単に、余った時間はゆっくり休みたい」女性のライフスタイルも、飲食店のおかげで実現できるのです。
小売業や飲食業は、生活者のライフスタイルを深掘りし、ニーズを的確に捉え、必要な商品、サービスを提供することで、暮らしの豊かさを提供することこそが役割といえるのではないでしょうか。
そして、同時にもう一つ大切なことは“新しいライフスタイルを提案”することです。
初めて目にした商品、新しい味わい方、これまでしていなかったコーディネートの着方、経験していなかった暮らし方を手にすることで、新しいライフスタイルを “増やし”さらなる豊かさをお客様は “選択”することができるようになります。
例えば、某人気チェーン店では多くの食品を扱っていますが、食品における核カテゴリー(=競争の際に武器になるカテゴリー)にカレーがあります。
この売場には「素材を生かした」「糖質10g以下のカレー」などのシリーズで、グリーン、キーマ、レッド、カリアヤムなどの味も辛さも多様な約30種類以上が、レトルトカレーを中心に品揃えされています。
レトルトカレーというと “簡便食”のイメージですが、この店では “手作り派”のライフスタイルのお客様へ「フライパンでつくるナン」のミックス粉を提案しています。
1袋でナン4枚を作れて調理時間は約50分と長いのですが、手作りにこだわりたい層には人気です。
カレーも「手づくりカレーキット バターチキン」なども販売。ソースベースに鶏肉だけを加えれば約30分でバターチキンカレーができ、ガラムマサラなども入っているので本格的な味を楽しむことができます。
これらの商品は全てプライベートブランドです。最初から売れる商品ではなかったかもしれませんが、海外の食べ物から学び、創造し、リニューアルし、“新しいライフスタイルの商品として提案”を続けることで、どこにもない競争力のある核カテゴリーに成長させました。
世の中のトレンドを学び、新しい生活様式を研究し、半歩先を行くライフスタイルを探し提案するのは難しいことですが、実現できれば差別化につなげることができます。
その意味で「ライフスタイル」は、暮らしの豊かさを提供する小売業や飲食業にとって極めて重要な概念といえるでしょう。
(文)ロジカル・サポート株式会社
代表取締役 三浦美浩
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
- 当記事は2026年3月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。