世界は「暑さに強い作物」へー小麦からレタスまで進む気候適応

国内外流通トピックス

乾燥した環境でも成長する植物を表した環境問題のイメージ画像

気候変動が進行するなか、世界の農業はすでに「暑さに強い作物」を前提に組み替わり始めています。小麦やトウモロコシのような主食作物だけでなく、レタスのような冷涼作物でも耐暑性品種の開発が進み、過酷な環境でも安定して収穫できる仕組みが整いられつつあります。その中心にあるのが、国際農業研究協議グループ(CGIAR)をはじめとする国際研究ネットワークです。世界の食料安全保障を支える気候適応作物の最前線を追います。

世界の主食、小麦とトウモロコシ

広がる麦畑の風景を写した農業のイメージ画像

2025年の“令和の米騒動”で、日本の食卓が揺れたことは記憶に新しいでしょう。主食が不足すると社会が不安定になるのは、日本だけの話ではありません。世界では、小麦やトウモロコシが同じ役割を担い、何十億人の食を支えています。

小麦は、世界で最も広く栽培されている主食作物です。ヨーロッパ、北米、ロシア、オーストラリア、中東など、生産地が世界中に分散しているため、どこかが不作でも他の地域で補完しやすいという特徴があります。

また、小麦は国際市場の規模が大きく、価格形成も透明で、調達先を切り替えやすい作物です。米のように国内依存度が高い作物とは構造が異なり、気候変動の影響を受けても揺れにくい供給構造が形成されています。

世界の農業を支える頭脳、CGIAR

食品の安全性や品質を検査する研究のイメージ画像

気候変動が問題になる前から、世界の農業は暑さや干ばつの影響を受けてきました。小麦やトウモロコシが収穫できない年も決して珍しくありません。そのため、世界中の公的機関や民間研究所では1970年代から、気候変動に負けない主要作物をつくる研究が継続的に進められてきました。暑さや干ばつでも育つ品種づくりが進められてきたというわけです。

その中心的な役割を担ってきたのが、国際農業研究協議グループ「CGIAR」です。CGIARは、FAO(国連食糧農業機関)と並ぶレベルで、世界の農業政策と研究の基盤を支えてきました。CGIARは「世界の農業の頭脳」といえる存在であり、各国の農業省や研究機関も、CGIARが蓄積してきたデータや品種情報を参照しながら政策設計を行っています。

CGIARの本部はフランスにありますが、実態は世界中に研究拠点を持つ巨大研究ネットワークで、アジアではフィリピン、南アジアではインド、中南米ではメキシコなど、「農業の現場」に研究拠点を配置しています。メキシコにある「CIMMYT」は小麦・トウモロコシが専門であり、インドの「ICRISAT」は乾燥地農業、フィリピンの「IRRI」は稲、ケニアの「ILRI」は畜産、ナイジェリアの「IITA」はアフリカ農業と、地域と作物に応じて役割が分かれています。

それぞれが非営利の国際研究組織であり、CIMMYTFAOIDA(国際開発協会)、欧州連合(EU)、米国農務省(USDA)、日本の農林水産省など多国籍の65の資金提供主体によって支えられています。ビル&メリンダ・ゲイツ財団(BMGF)が多額の寄付を行っていることでも知られています。

耐暑・耐乾燥小麦が動かす国際育種

農作物の状態を確認している農業のイメージ画像

CGIARは耐暑小麦、耐乾燥トウモロコシ、気候適応作物などの研究を数十年単位で継続してきました。

なかでも、近年の気候変動で重要性が増しているのが、耐暑小麦の国際プロジェクトです。気温が1度上がるだけで小麦の収量は数%低下するとされるなか、耐暑性の向上は世界の食料安全保障に直結する課題となっています。

世界の主要な小麦生産国が参加し、暑さに強い品種を共同で開発する取り組みで、その中心的な役割を担っているのがメキシコのCIMMYTを含むCGIARの研究ネットワークです。

世界の農家のために、研究成果は特許によって囲い込まれることなく公開され、各国が必要に応じて自由に活用できるように提供されています。耐暑性の遺伝資源や育種技術は、世界中の小麦育種の基盤として機能しています。201222年の10年間で951品種を60カ国に提供していることを公表しています。

米国はCGIARCIMMYTを支援するだけでなく、その成果を自国の農業の気候適応に積極的に取り入れています。米国農務省や大学の育種家は、耐暑性・耐乾燥性の小麦系統を交配親として利用しています。これらの系統は、米国南部や西部の高温地域での収量安定に大きく貢献しており、気候変動下における米国の食料安全保障を支える重要な基盤となっています。

レタスにも広がる気候適応

温室内で作物の研究・分析を行う農業研究のイメージ画像

こうした気候適応は小麦に限らず、野菜でも同様に進んでいます。米国では、種子メーカーが「heat‑tolerant varieties(耐暑性品種)」として紹介するように、耐暑性レタス品種の導入が進んでいます。レタスは本来「涼しい季節の作物」ですが、カリフォルニアやアリゾナの高温環境でも育つように開発された品種が、サラダ用レタスの供給を支えています。

一方、日本では現在の農地で育てやすいレタスの品種改良は進んでいますが、暑さへの対応策として中心となっているのは、生産地を涼しい山地へ移す作型調整です。つまり、米国が「品種そのものを暑さに適応させる」のに対し、日本は「栽培環境を変えることで暑さを回避する」というアプローチを取っている構造的な違いが見られます。

しかし、日本の涼しい山地へ生産を移す方法には面積や労働力の制約があり、輸送コストもかさむため、価格上昇圧力は避けられません。気候変動が進むなかで、世界標準のように「高温そのものに耐える品種」を導入したり、契約農家が特定の種子を使う仕組みを整えたりするなど、品種レベルでの適応を検討する必要が出てくるかもしれません。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー  
代表取締役 毛利英昭

  • 当記事は2026年2月時点のものです。
    時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

お問い合わせ・資料請求

Toshiba Tec Group Philosophy Creating with You ともにつくる、つぎをつくる