単なる「安さ」ではもう動かない~価格高騰時代に消費者が選ぶ"納得消費"の正体~

国内外流通トピックス

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物価高が続くなか、消費者は以前にも増して価格に敏感になっている─そう考えがちですが、現場では必ずしも「安さ」だけが購買を左右しているわけではありません。食料品や日用品、エネルギーなど生活必需品の値上げが常態化する中で、消費者は単なる節約ではなく、「この価格なら納得できるか」という基準で支出を選別し始めています。本稿では、価格高騰時代に顕在化した"納得消費"の正体を読み解き、企業が着目すべき視点を整理します。

「値上げの時代」に何が起きているのか――家計実態とマインドの変化

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2020年を100として物価の変動を反映した消費者物価指数(CPIConsumer Price Index)の前年比は、2025年で総合+3.2%、コア(生鮮食品除く)+3.1%、コアコア(生鮮食品・エネルギー除く)+3.0%となっており、一度上がった値段がなかなか下がらずに家計にとって“高いまま”の状態が続いています。

特に、日々の生活に直結する食料品の消費者物価指数は、円安やロシアのウクライナ侵攻、穀物・原材料の輸送コスト高騰などにともない2022年以降、大きく上昇しており、2025年の前年比も+6.8%と総合指数を押し上げる要因となっています(図表1)。

<図表1>2020年を100とした消費者物価指数(総合・コア・コアコア)の前年比差異

<図表1>2020年を100とした消費者物価指数(総合・コア・コアコア)の前年比差異のグラフ画像
出典:総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年(令和7年)平均」

その結果、労働者が実際に受け取った給与である名目賃金から消費者物価指数に基づく物価変動の影響を差し引いて算出した実質賃金は、2022年以降、前年比・前年同月比マイナスで推移しています(図表2)。

<図表2>実質賃金(事業所規模5人以上)前年比・前年同月比の差異

<図表2>実質賃金(事業所規模5人以上)前年比・前年同月比の差異のグラフ画像
出典:経済産業省「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年11月分結果確報」

“安さ”から“納得”へ――購買ロジックの転換

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  1. 価格から価値へ:納得消費のドライバー
    エネルギー・食料高、物流規制のコスト転嫁など、実需側・供給側の双方から「安さ」一辺倒を難しくする構造要因が顕在化しています。こうした環境下において、消費者は「価格に対する納得できる根拠(品質・安全・時短・体験・長持ち・環境負荷の低さなど)」を求めるようになってきています。

    特に食料品と日用品といった生活必需品は、消費者にとって“外せない支出”として優先順位が上がるため、価格以外の価値(鮮度、産地の透明性、作り手の姿、時短・健康、フードロス削減など)での説明責任の重要性が高まります。

  2. 「買わない自由」と「選んで買う」:カテゴリー別の選択
    経済産業省「商業動態統計」によると、2024年度における販売金額前年度比差異は各業態ともプラスですが、百貨店+4.2%・スーパー+2.7%・コンビニエンスストア+1.4%・家電大型専門店+2.1%・ドラッグストア+6.1%・ホームセンター+1.6%と業態間の差が鮮明となっています。

    また、各業態においても、スーパーでは飲食料品+3.5%に対して衣料品計▲9.4%、大型家電専門店では理美容家電+10.0%に対して情報家電の本体や周辺機器がそれぞれ▲4.7%、▲3.1%とカテゴリー間の差が顕著であり、消費者の“選んで買う”態度が読み取れます。

“納得消費”の正体――5つの可視化の必要性

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本稿では、“納得消費”を「支出の納得根拠が価格以外にも複数存在し、購買前後で説明可能な状態」と定義し、可視化が必要な5つの要素について説明します。

  1. 原価・値上げ根拠の可視化
    • 何をするか: 原材料、物流、人件費、エネルギーの構成比と、価格改定幅の関係を簡潔に図示。改定後に「据え置き項目(容量・品質)」も同時に明示。
    • なぜするか: 電気・ガス・燃料の支援は期間限定で、家計負担が月次で変動しやすい。誠実な説明こそロイヤルティの源泉。

  2. 品質・安全・サステナビリティの可視化
    • 何をするか: 産地・規格・検査情報、環境負荷指標(例:CO₂、フードロス率)を店頭POPECサイト、レシートに連携。
    • なぜするか: 食の値上がり局面で、“買う理由”は品質・安全の納得性に移行。購買傾向は、「安いから買う」から「理由があるから選ぶ」へ。

  3. 体験価値・時間価値の可視化
    • 何をするか: 調理時短や来店時間短縮、受取りの確実性(店舗ピックアップ・宅配ロッカー・置き配など)を消費者に訴求。
    • なぜするか: 体験・時短への支出は価格弾力性が相対的に低い。

  4. 価格設計の“選べる化”(Good-Better-Best価格戦略)
    • 何をするか: Good-Better-Best3段階の価格を設定し、違いを「スペック表」+「ライフシーン」で提示。多様なニーズに応えることで、顧客単価の向上を図る。
    • なぜするか: 同じカテゴリーでもスーパーやディスカウントストア、ドラッグストア、ECなど需要の受け皿が分化しており、選択肢の設計力が競争力アップにつながる。

  5. 顧客マインドの可視化
    • 何をするか: VOCVoice of Customer:顧客の声)を「価格・品質・時短・体験・信頼・環境」の5類型でタグ付けし、内閣府「消費動向調査」の消費者態度指数と合わせて変化を確認。
    • なぜするか: 物価上昇により値下げ期待が薄い環境での顧客への説明は、価格ではなく根拠の透明化。

“納得”は設計できる

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価格は企業が一方的に決めますが、“納得”は顧客と共に設計するものです。物価上昇に賃金アップが追い付かず実質賃金がマイナスで推移する環境では、「原価の見える化」、「品質・安全の証明」、「時間と体験の言語化」、「選べる価格設計」、「マインドの継続観測」という5点セットが、低価格戦略の行き詰まりを打破して価格だけではない“選ばれる理由”を形成するキーポイントになります。

価格は結果、納得はプロセスです。そのプロセスを設計することこそ、価格高騰時代における競争優位につながるでしょう。

(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

  • 当記事は2026年2月時点のものです。
    時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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