世界で広がるハイブリッド型ソロ旅
国内外流通トピックス
世界では今、ソロ旅が新たなスタンダードになりつつあります。自由度の高さや心理的ハードルの低下に加え、「AI・空港ラウンジ・ウェルネス」という3つの要素が、ひとり旅の質を大きく押し上げています。ひとりで移動し、必要な場面だけ他者とつながる「ハイブリッド型ソロ旅」は、個人の価値観やライフスタイルの変化を象徴する旅の形態です。
世界のトレンド「Solo Travel」
コロナ禍を経て、世界中で旅のスタイルが大きく変化しました。リモートワークやノマドのような働き方が一般化し、移動や滞在を自分のペースで組み立てる「ソロ旅」が広く受け入れられるようになりました。
あるホテル予約サイトのデータでは、コロナ禍前にひとり旅をしていた旅行者は14%でしたが、2021年半ばには23%へと増加しました。
さらに2024年の報告によると、世界の旅行者の54%が今後12カ月以内にソロ旅を計画しているとされています。ミレニアル世代から退職者まで、より多くの人々が新しい目的地だけでなく、自分自身も発見するためにソロ旅を選んでいます。
検索サイトのトレンドでも「Solo Travel」に関連する検索が大幅に伸びており、関心の高まりが数字にも表れています。
ソロ旅は、日本の「おひとりさま」のように、完全にひとりで過ごすことを意味していません。世界のトレンドとしては、少人数制でガイドが付くワインツアーや陶芸体験、料理教室、街歩きツアーなど、現地で開催されているオプショナルツアーに参加する旅へと進化しています。多くのオプショナルツアーは、ひとりで参加することが前提になっています。
かつての「ひとり=孤独」というイメージではなく、自分で旅程を管理し、必要な場面だけ他者と合流する柔軟な旅が主流になりつつあるといえます。
ひとり時間を楽しむ新しい文化
ソロ旅を後押ししたのが、SNSを通じて、韓国やアメリカ、イギリスで「#solodate(ソロデート)」の文化が広がったことです。女性ひとりで映画やカフェ、スパを楽しんでいる動画が多数アップロードされるようになったのです。
韓国はもともと「女性がひとりで行動しにくい社会」とされていましたが、2015〜2019年に「ひとり文化」が社会現象化して、2010年代後半に価値観が大きく変わりました。飲食店では、ひとり専用席、ひとり焼肉、ひとり鍋が登場して、女性のひとり外食が「恥ずかしい」から普通へ。2017〜2019年には、ひとり飲みが一般化しました。
一方、アメリカやイギリスは韓国とは逆で、もともと「ひとり行動」への抵抗が少ない文化の中で、2018〜2020年に「solo date / self-date」という言葉が広がり、「自分を大切にする時間」として定着。「ひとりで過ごす=自立した大人の行動」という価値観が、若い層を中心に自然に広がりました。
女性がひとりで安心して行動できる環境が整ってきたことも背景にあります。 位置情報共有アプリ、配車アプリの普及、オンラインでの事前情報収集のしやすさなど、こうした“リスクを自分で管理できる手段”が増えたことで、「危険だからやめておく」という消極的な判断よりも、自分で安全を確保しながら行動するという選択が現実的になりました。
ハイブリッド型ソロ旅を支える三大要素
ソロ旅の増加とともに、「ひとりで完結する旅」から「必要な場面だけ他者と合流する旅」へとスタイルが変化しています。この形はハイブリッド型ソロ旅と呼ばれ、海外では一般的な選択肢になっています。
移動手段はフルサービス航空会社(FSC)や格安航空会社(LCC)、自分の都合と予算に合わせて個別に手配し、ホテルで友人や家族、恋人と合流するケースも一般的です。あるいはオプショナルツアーに参加したりするなど、旅の主導権を自分で持ちながら、必要な部分だけ他者と共有するのが特徴です。
こうしたハイブリッド型ソロ旅の広がりを支えているのが、「AI・空港ラウンジ・ウェルネス」という三大要素です。
旅の負担を軽減するAI
2024年以降、スマートフォンに生成AIが標準搭載されるようになり、旅の準備や当日の判断が大きく変わりました。
旅程の作成、おすすめのオプショナルツアーや飲食店など、これまで人が時間をかけて調べていた作業を、AIが最適化してくれるようになりました。
特に国際線のトランジットや、国際線から国内線への乗り換えがある旅では、AIは頼りになります。広い空港での移動や、ゲート変更などの状況が変わりやすい場面でも、必要な情報をすぐに整理してくれるため、落ち着いて行動できるようになります。
ソロ旅では判断や調整をすべて自分で行う必要がありますが、AIがその負担を軽くしてくれることで、旅の自由度が大きく広がっています。「どこに行くか」「どう動くか」をリアルタイムで提案してくれる“相棒がいる”ことで、ひとりでも安心して新たな場所に踏み出しやすくなりました。
ただし、AIが旅の判断を代わりにしてくれるわけではありません。「自分が何をしたいか」という明確な人ほど、AIは選択肢を整理し、迷いを減らす相棒役として機能します。
快適な空港ラウンジ
移動はひとり、現地だけ一緒に過ごすという分離型の旅が増える中で、移動時間を快適に保つための基盤として「空港ラウンジ」の重要性が高まっています。静かで、座席のゆとりがあり、飲み物や軽食、Wi‑Fi、電源などが整い、移動のストレスを大きく減らしてくれる空間として人気があります。
空港ラウンジはもともと、航空会社がファーストクラスやビジネスクラスの乗客のために用意した「特別な待合室」として始まりました。
その後、頻繁に飛行機を利用する航空会社の上級会員にも開放。さらに近年は、イギリス発の「プライオリティ・パス」のような会員サービスや、クレジットカード会社のゴールド会員向け特典として利用できる空港ラウンジが増え、一般の旅行者にも一気に広がりました。かつては一部の人だけの空間だった空港ラウンジが、今では「旅の質を整えるためのインフラ」として、多くのソロ旅ユーザーにとって身近な存在になっています。
自分を整える「ウェルネス」
コロナ禍以降、旅行市場では「ウェルネス」を目的とした旅が急速に拡大しています。 スパ、サウナ、瞑想、ヨガ、睡眠改善プログラムなど心身の回復を重視した体験が求められるようになり、これらはソロ旅との相性が非常に高いとされています。
ウェルネス体験は、他者と共有するよりも、自分の状態に集中する時間が中心になります。そのため、同行者がいても別々にスパを受けたり、滞在中の一部をひとりで過ごしたりするケースが一般的です。「ひとりで整う時間」を確保しやすい点が、ソロ旅のニーズと一致しています。
また、世界のウェルネスリゾートでは、少人数制のクラスや個別セッションが増えており、ひとり参加が前提のプログラムも多く提供されています。 旅先での体験を自分のペースで選べることが、ソロ旅の価値をさらに高めています。
ウェルネスは、単なるリラクゼーションではなく、旅の目的そのものとして位置づけられつつあります。ソロ旅の広がりとともに、「自分を整えるための旅」という新しいカテゴリーが確立されているのです。
現代のソロ旅は、ひとりで過ごすことそのものよりも、自分のペースを保ちながら交流を選択できる柔軟さが重視されています。ひとりで移動し、現地で合流し、またひとりの時間に戻るという流れが、心理的負担の少なさと調整のしやすさから、自然な旅のスタイルとして定着しつつあります。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
- 当記事は2026年3月時点のものです。
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