小売とメーカーの視点の違い

国内外流通トピックス

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「商談時に売れる根拠は十分に示したはずなのに、なぜバイヤーは提案を採用しないのか」。メーカー営業担当者の多くが抱くこの疑問の裏には、メーカーと小売の"見ている景色"の違いがあります。小売が本当に気にしているのは、売上よりも「欠品しないか」や「現場が運用できるか」といった現実的な問題です。本稿では、メーカーが小売の本音を読み違えてしまう理由と、実務での改善ポイントを分かりやすく解説します。

「小売の本音」は“売上”ではなく“運用”にある小売は「売れるか」より「回るか」を先に見る

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メーカー営業担当者は、提案の主語を「商品の良さ」や「売上」、「シェア」などに置きがちです。

しかしバイヤーの意思決定は、まず欠品・補充・陳列維持・在庫回転・廃棄といった“現場での運用”が起点になります。

近年は物価高が続き、メーカー各社の価格や容量の改定が常態化していますが、これらの改定により値札や棚札の貼り替え、POPの作り直し、発注数量の調整、在庫の評価替えなど、現場で発生する細かな作業が一気に増えます。

こうした手間が増えるほど現場は回りにくくなるため、小売側が「無理なく回るか」を重視するのはごく自然な判断と言えます。

人手不足が「本音」をさらに運用寄りへ

店頭で商品の在庫や陳列を管理する様子のイメージ画像

さらに、現場における人手不足の深刻化も、運用重視を決定的にしました。

小売業は、接客やレジ、品出しなど人手(労働力)への依存度が高い「労働集約型産業」の代表格です。

ここで重要なのは、「売れる商品」よりも「少人数でも売場を維持できる商品」が選ばれやすくなることです。

例えば、同一ブランドの多フレーバー展開は“提案として”魅力的でも、フェイス管理・補充・発注の難度を上げます。

メーカーが「小売の本音」を読み違える第一の理由は、小売の評価軸が“売上×運用負荷”の関数になっているのに、売上だけで提案を組み立ててしまう点にあります。

読み違えが起きる「構造的な3つのズレ」

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そもそもメーカー側と小売側でなぜ行き違いが発生するのでしょうか。大きくは「KPI」「時間軸」「情報」の3つのズレが原因と考えられます。

①KPIのズレ:メーカーは“出荷”、小売は“粗利と在庫”

メーカーの多くは、出荷数量や出荷金額、導入店舗数を成功指標に置きます。

一方、小売は粗利額・粗利率、在庫回転、廃棄、欠品、カテゴリー全体の売上を見ます。

ただし、物価上昇局面では、同じ「売上増」でも実質がともなわないことがあります。

売上が伸びても、値上げ要因で数量が落ちていれば、在庫回転・棚の健全性は悪化します。小売はここを敏感に見ます。

<典型的な読み違え>

  • メーカー営業担当者:「値上げ後も、一品単価上昇により売上金額は維持できています」
  • バイヤー:「値上げにより販売数量が落ちることで棚の回転が鈍り、欠品より“滞留”が怖い」
    この会話は、双方のKPIが違うために起きます。

②時間軸のズレ:メーカーは“中期”、小売は“週次・月次”

メーカーはブランド投資を中期で見ますが、小売の現場は「今週」「今月」の数字に追われています。
また、消費マインドも景気や天候など様々な状況で揺れ動きます。
小売側では、このような消費マインドの変化に合わせて棚割りや販促を調整することも多いため、メーカーの営業担当者が中期のブランドストーリーだけで提案しようとしても、採用に向けた説得力が弱くなってしまいます。

③情報のズレ:メーカーは“市場平均”、小売は“自店の顧客”

メーカー営業担当者の提案書に多いのは、市場全体におけるカテゴリーやブランドの構成比や前年比といったデータです。しかしバイヤーが本当に知りたいのは、自社・自店の顧客が買うかどうかです。いくらメーカー側が「市場全体での構成比の大きさや前年比の伸び」を提示しても、小売にとっては「自社の客層で再現できるか」が重要な論点となります。特に、都市型小型店・郊外大型店・EC併用など、“市場平均”とのフォーマット差が大きいほど、市場における構成比や前年比に基づく提案はバイヤーに受け入れられにくくなるでしょう。

読み違えが増幅している“外部環境”――物流と物価「物流の2024年問題」が棚割りの前提条件を変えた

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物流の2024年問題によって、小売の棚割り作成の前提条件は大きく変わりました。

これまで小売は、「売れるかどうか」を最優先に商品を選び、棚に並べてきました。多少欠品が起きても、発注すればすぐに商品が届くという前提があったからです。

しかし、トラックドライバーの労働時間規制が強化され、物流の余力が減ったことで、この前提は崩れつつあります。

納品回数の制限や遅延、欠品の長期化が起こりやすくなり、「今まで通り当たり前に商品が届く」状況ではなくなりました。

この変化は、棚割りの考え方そのものに影響を与えています。棚は単に商品を並べる場所ではなく、発注・納品・補充・在庫調整が継続的に回ってはじめて維持されます。

物流が不安定になると、この循環が止まり、棚が歯抜けになったり、代替対応が頻発したりと、売場全体が乱れやすくなります。

小売にとっては、「売れない棚」以上に「荒れる棚」の方が大きなリスクなのです。

そのため現在のバイヤーは、商品を採用する際に「売れるか」よりも先に、「安定して届き続けるか」「欠品せず棚を維持できるか」を確認するようになっています。

たとえ商品力が高く、市場データで成長が示されていても、供給が不安定であれば棚に置く判断は難しくなります。

つまり、物流の2024年問題によって、棚は「販売力で選ぶ場所」から「安定して運用できる商品を選ぶ場所」へと変わりました。

メーカー提案が通りにくくなっている背景には、商品力の問題ではなく、この棚を維持するための前提条件の変化があるのです。

物価高騰が「価格提案」の説得力を落としている

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物価が安定していた時代であれば、メーカーの営業担当者は「この価格なら売れます」「競合より安い、もしくは妥当です」といった価格提案によって、バイヤーを説得することができました。

しかし、物価高騰が続く局面では、価格改定は一度きりで終わりません。売価を変更すると、それにともなって前述のように値札や棚札の貼り替えなど店頭とバックヤードの作業が連鎖的に発生します。価格を少し変えるだけでも、現場では多くの手間と時間が必要になります。

さらに、消費者の反応も読みづらくなっており、値上げ後に「どれだけ数量が落ちるのか」「代替商品に流れるのか」は、事前に正確には予測できません。

結果として、小売側では「売価が適正か」よりも、「数量が想定より落ちた時に在庫が滞留しないか」といったリスクを強く意識するようになります。そのため、メーカー営業担当者の値上げや価格改定をともなう提案について、バイヤーは「その後の運用まで含めて説明されているか」を見るようになってきています。

具体的には、価格の妥当性を説明するだけでは不十分で、価格改定後の数量変化、棚割りの組み替え、在庫の持ち方まで含めて示せなければ、「理屈は分かるが、現場では扱えない」というバイヤー判断につながりかねません。

読み違えを解消する「小売の本音を言語化する」5つの実務

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メーカー営業担当者がバイヤーの本音を正しく理解し、読み違えを減らすためには、「売れる理由」や「商品の優位性」を説明するだけでは不十分です。そこで重要になるのが、これまで説明してきた小売側が暗黙のうちに重視している判断軸を、メーカー側がきちんと言語化し、提案に落とし込むことです。

第一に求められるのは、商品そのものではなく、導入後の運用設計を示すことです。欠品時の対応、補充や発注のしやすさ、在庫の持ち方など、「この商品を扱ったとき、現場はどう動くのか」を具体的に示すことで、小売側は初めて導入後の姿をイメージできます。

第二に、市場全体のデータや平均値ではなく、その小売企業・その顧客に当てはめた仮説を提示することが重要です。小売が見ているのは「市場で売れているか」ではなく、「自社の客層で再現できるか」です。この視点が欠けると、提案は一気に抽象的になります。

第三に、価格提案については、価格の妥当性だけでなく、価格変更後の棚割り運用まで含めて説明する必要があります。値上げ後に数量が落ちた場合の対応や、棚割りの組み替え方針まで示されて初めて、小売は現実的に判断できます。

第四に、小売の意思決定が週次・月次で行われていることを踏まえ、短いサイクルで検証できる判断軸を用意することが欠かせません。中長期の理屈だけではなく、「まず1か月で何を見るのか」を共有することで、提案は現場の判断リズムに合ってきます。

最後に、物流制約や供給不安といった外部環境を「前提条件」として共有し、小売と一緒に対処する姿勢を示すことが重要です。制約を隠すのではなく、どう乗り越えるかまで含めて示すことで、メーカーは「売り込み相手」から「一緒に売場を支える存在」へと位置づけが変わります。

これら5つの実務を押さえることで、メーカーの提案は「理屈として正しい話」から、「小売が実際に扱える話」へと変わります。小売の本音を言語化するとは、相手の気持ちを推し量ることではなく、判断基準と制約条件を共有することにほかなりません。

このようにメーカー営業担当者がバイヤーの本音を読み違えるのは、能力不足というより、KPI・時間軸・情報のズレが構造化しているからです。そして、継続的な物価上昇や物流制約(物流の2024年問題)が、そのズレをさらに増幅しました。

だからこそ、提案の主語を「売れる」から「回る」に変え、短サイクルで検証し、小売側と共同で“売上×運用負荷”の課題に取り組んでいくことが、いま最も確実な打ち手になります。

(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

  • 当記事は20263月時点のものです。
    時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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