大型自動倉庫から戦略転換、冷凍倉庫にドローンを導入したアメリカの食品スーパー
国内外流通トピックス
巨額の投資を続けてきた大型自動倉庫網を見直し、既存店舗を生かしたeコマースへと軸足を移すアメリカの大手スーパーA社。その一方、物流現場では、冷凍倉庫の在庫管理に自律飛行型ドローンを導入しています。大型設備への集中投資から、既存資産とデータ、機動的なテクノロジーを組み合わせる方向へ――。A社の転換は、小売DXにおける「投資額」より「収益性」を重視する経営の重要性を示しています。
食品シェアを奪われ続けた10年とDX投資の行き詰まり
アメリカ最大級の食品スーパーA社は、この10年間、価格競争力を持つ世界最大手のスーパー、会員制ウェアハウス型スーパー、そしてデジタルを武器にする大手ECなどとの競争にさらされてきました。消費者のオンライン購買が広がる中、食品ECの利便性と収益性をどう両立させるかが大きな経営課題となっていました。
A社がネットスーパー拡大の切り札として選んだのが、大型倉庫をロボットで高度に自動化する戦略でした。2018年にB社との提携を発表し、自動化されたフルフィルメント施設の整備を進めます。しかし2025年、A社はeコマース戦略を見直し、自動化フルフィルメント網が財務面で期待に達していないとして、一部施設の閉鎖・計画中止を決定しました。
重要なのは、A社が「自動化そのもの」を否定したわけではない点です。大型専用施設への集中投資を見直す一方、既存店舗を活用したフルフィルメントや外部配送パートナーとの連携を強化し、物流現場ではAIやロボット、ドローンなどを用途に応じて活用する方向へと舵を切っています。
「3段階配送モデル」を支えた大型自動倉庫の限界
A社が2018年に採用したのは、B社の大型自動倉庫でした。何千台ものロボットが格子状のレール上を高速で走り回り、注文商品を自動ピッキングするハイテク倉庫は、当時「ネットスーパーの最も有力なモデル」と見なされていました。
この計画は、「大型自動倉庫にピッキングを集中させることで、店舗でスタッフが商品を集めるよりも注文あたりの処理効率を高められる」という考え方に立っていました。中央の大型施設で注文を処理し、地域の拠点を経由して顧客へ届ける仕組みを構築することで、食品ECの規模拡大を目指したのです。
大型倉庫で工業的な速度でピッキングと梱包を行い、顧客の近くに配置された地域センターまでトラックで搬送。そこから各家庭へバンで届ける――。この仕組みを全国に広げれば、他社が簡単に真似できない優位性を築けるはずでした。
A社は2021年以降、自動化フルフィルメント施設の稼働を本格化させ、その後も複数地域へ展開しました。オンライン需要が急拡大した時期には、高度に自動化された大型施設の処理能力が大きな強みになると期待されました。
しかし、食品ECでは注文処理の効率だけでなく、施設の固定費、配送距離、ラストワンマイルなどを含めた注文全体の採算性が問われます。需要を伸ばすことと、利益を確保することは必ずしも同じではありません。
A社もやがて、施設単体の処理能力ではなく、eコマース事業全体の収益性という観点からネットワークを再評価することになります。
倉庫撤退と戦略転換
2025年11月、A社はeコマース戦略の見直しを発表し、自動化フルフィルメント網が財務上の期待を満たしていないとして、一部施設の閉鎖と計画の中止を決定しました。2025年度には、この自動化ネットワークに関連して約25億ドルの減損・関連費用を計上。この中には、B社との一部施設の閉鎖・計画中止に伴う約3億5000万ドルの契約終了関連の支払いも含まれています。
背景にあるのは、食品EC特有の難しいコスト構造です。食品は常温品だけでなく、冷蔵・冷凍、生鮮など複数の温度帯を扱う必要があり、さらに注文処理から配送まで一貫して高い品質管理が求められます。
高度な自動化設備は大きな処理能力を発揮する一方、施設の建設・維持には相応の固定費がかかります。とりわけ食品ECでは、倉庫内の効率化だけでなく、顧客宅まで届けるラストワンマイルを含めた全体最適が欠かせません。
そこでA社は、大型自動倉庫だけに依存するのではなく、顧客に近い既存店舗を活用したフルフィルメントを重視するとともに、外部の配送サービスとの連携も拡大しています。
つまり、A社が見直したのは「自動化」ではなく、巨額の固定資産を前提にした一律のネットワーク設計です。収益性を軸に、店舗・物流施設・外部パートナーを組み合わせる方向へと転換したのです。
物流DXの新たな一手「冷凍倉庫ドローン」
大型自動倉庫網を見直す一方で、A社は物流現場の自動化を止めたわけではありません。むしろ、既存施設に導入しやすく、特定の業務を効率化できるテクノロジーを選別して活用しています。その象徴的な例が、冷凍倉庫に導入された自律飛行型の在庫管理ドローンです。
冷凍倉庫では、低温環境の中で棚やパレットの在庫を確認する作業そのものが従業員の大きな負担になります。しかも、先入れ先出しや在庫位置の把握など、正確で頻繁な棚卸しが求められます。
こうした環境では、人が長時間作業することに制約があり、一般的な自動化機器にも低温、霜、結露、強い気流などへの対応が求められます。冷凍倉庫は、常温倉庫以上に自動化の難しい領域の一つです。
そこでA社が導入したのが、C社の冷凍・冷蔵環境向け自律型在庫管理ドローンです。C社は2026年2月、A社が実際の冷凍倉庫で「Corvus One for Cold Chain」を使用していることを公表しました。
このドローンはマイナス20°F(約マイナス29℃)までの環境で自律飛行し、既存のバーコードを読み取って在庫位置や滞留時間などを継続的に把握します。Wi-FiやGPS、専用マーカーを必要とせず、冷凍倉庫内で自動的に棚卸しを行えることが特徴です。人による定期的な棚卸し作業を減らし、在庫データをより高頻度で更新することで、先入れ先出しの管理や補充判断の精度向上にもつなげられます。
ドローンが変える冷凍倉庫の在庫管理
ここで重要なのは、ドローンが商品を運ぶのではなく、「在庫の実態をデータ化する役割」を担っていることです。C社のシステムは、倉庫内を自律飛行しながら棚やパレットをスキャンし、現物在庫の位置や状態を継続的に把握します。これまで人手に頼っていた棚卸しを高頻度化できれば、システム上の在庫と実在庫のずれを早期に発見しやすくなります。
1.冷凍倉庫内を自律飛行
ドローンは、GPSが使えない倉庫内でも搭載したAIやコンピュータービジョンを利用して自律飛行します。冷凍倉庫特有の霜や結露、照明条件、送風機による気流などにも対応しながら、棚のバーコードを読み取ります。
人が棚卸しのために長時間冷凍庫へ入る必要を減らせるため、作業負担や安全面の改善にもつながります。
2.在庫位置と滞留時間を可視化
読み取ったデータから、どの在庫がどの棚・パレット位置にあるのかを継続的に確認できます。また、在庫の滞留時間を把握することで、先入れ先出し(FIFO)の管理や廃棄ロスの抑制にも役立てることができます。
冷凍食品のように在庫回転や期限管理が重要なカテゴリーでは、棚卸しの頻度を高め、現場の実在庫を正確に把握できること自体が大きな価値になります。
C社のシステムはWMS(倉庫管理システム)とのAPI連携にも対応しており、取得した現場データを既存の物流システムへ取り込むことも可能です。
3.補充・物流判断の精度を高める
ドローンが取得する最新の在庫データは、それ自体が配送計画を決めるわけではありません。しかし、WMSや補充システムと連携することで、「どの商品が、どこに、どれだけあるのか」という現場情報を、補充や出荷判断の精度向上に生かすことができます。
つまりドローンの価値は、人の代わりに商品を運ぶことではなく、これまで取得に手間がかかっていた「現場の正確な在庫情報」を自動的かつ高頻度でデータ化する点にあります。
4.人はより付加価値の高い作業へ
棚卸しや在庫確認をドローンに任せることで、従業員はピッキング、補充、出荷など、人の判断や作業が必要な業務に時間を振り向けやすくなります。
- ドローンは在庫を数え、位置を確認
ドローンが自律飛行しながらバーコードを読み取り、棚やパレット単位で在庫位置を確認します。 - データを物流システムへ連携
取得した在庫データは、WMSなど既存の物流システムと連携することで、在庫差異の確認や補充判断などに活用できます。 - 人は実作業に集中
従業員は棚卸しのために冷凍倉庫内を長時間巡回する負担を減らし、必要なピッキングや補充、出荷などの実作業に集中できます。AI・ロボットと人の役割を分けることで、物流現場全体の生産性向上につなげる考え方です。
eコマースは「規模」から「収益性」へ
A社の戦略転換は、2025年11月に公表されたeコマース戦略の見直しから本格化しました。大型自動倉庫網の一部を閉鎖する一方、既存店舗を生かしたフルフィルメントや外部配送パートナーとの連携を強化し、2026年にはeコマース営業利益を約4億ドル改善する計画を掲げています。
2026年度第1四半期には、調整後eコマース売上が前年同期比19%増となりました。会社側はeコマースの収益性が改善したと説明しており、2025年度通期決算でも、戦略見直しによって2026年にeコマースの黒字化への道筋をつける方針を示しています。
ここで注目したいのは、「大型自動倉庫をやめてドローンに置き換えた」という単純な話ではないことです。大型施設への集中投資を見直しながら、店舗、外部配送網、AI、ロボット、ドローンなどを、それぞれ最も効果を発揮する場所で使い分ける。A社は、テクノロジー導入そのものを目的とするDXから、収益性を起点に技術を組み合わせるDXへと軸足を移しています。
以上、A社の事例が示しているのは、DXとは最新技術を導入することではなく、既存の店舗や物流網、人材を生かしながら、データとテクノロジーで事業の仕組みそのものを再設計することだという点です。
巨額の投資をしたシステムであっても、期待する収益につながらなければ見直し、より現実的な方法へ切り替える。一方で、冷凍倉庫の棚卸しのように明確な課題がある領域には、ドローンという新しい技術を機動的に導入する。その柔軟な経営判断こそ、変化の激しい時代には欠かせません。
AIやロボット、ドローンの導入目的は「自動化すること」そのものではありません。最終的な目的は、顧客サービスを高めながら、生産性と収益性を改善することにあります。A社の試行錯誤は、日本の小売業がDX投資を考えるうえでも、「何を導入するか」ではなく「どの経営課題を、どの技術で解決するのか」を問い直す重要な示唆を与えてくれます。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※ 当記事は2026年8月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。