AIが飲食を再設計―中国発コーヒーチェーンが示す「次の標準モデル」

国内外流通トピックス

「AIが飲食を再設計算」をイメージした画像

中国発のコーヒーチェーンA社は、チェーン店をIT企業のように再設計したブランドです。注文から商品開発まで、店舗運営のすべてをAIがリアルタイムで最適化し、常に「その瞬間のベスト」を自動で維持する仕組みになっています。店長の経験や職人の技術に依存しない、完全デジタル前提の運営モデルが、従来の飲食店とは決定的に異なる点で、未来のコーヒーチェーンの在り方を示唆しているようです。

AIネイティブ企業だからこそ、実現できた

2017年に中国で設立されたA社。わずか3年でそれまで中国トップだったB社を店舗数で追い越し、2020年には中国最大のコーヒーチェーンに躍り出ました。その後も快進撃は続き、2025年には米国にも上陸。シンガポールやマレーシアなどアジア各国へも展開を広げています。そして2026年2月には、ついに世界の総店舗数3万店を達成し、深センに記念すべき旗艦店をオープンさせました。 

A社が急成長できた理由は、事業の設計段階から「すべての顧客がデジタル接点である」ことを前提にしている点にあります。注文から商品受け取りまで、すべてのプロセスがデータでつながり、AIが一体で制御できる構造になっているのです。 

店舗にはレジがありません。注文と決済は100%アプリで完結するキャッシュレス構造で、徹底的な業務効率化と行列解消を実現しています。店舗は基本的に「コーヒーを受け取るためだけの場所」であるため、競合しているカフェのような快適なソファがある居心地の良い「サードプレイス」とは異なっています。 

余計な空間コストを徹底的に削ぎ落とし、コーヒーの提供と効率処理に特化することで、本格コーヒーを低価格で提供することに成功。それまでコーヒーを飲まなかった層を開拓し、中国のコーヒー市場自体を拡大してきました。 

出店スタイルもフランチャイズ(FC)型をメインとすることで、リスクを抑えながら爆発的なスピードで店舗網を拡大しています。 

「AIネイティブ企業だからこそ、実現できた」をイメージした画像

人に頼らない管理システム

A社はすべての注文がアプリ経由である特性を活かし、店舗の運営をシステムで自動制御しています。飲食店の店長の業務で最も引き継ぎが難しいのが「シフト作成」や「食材の発注」といった店長業務です。これらはすべて本部のAIシステムが自動で行うため、店舗のスタッフは管理業務を一切行う必要がありません。 

「人に頼らない管理システム 」をイメージした画像

1.自動注文割り当て 

「注文は2分以内に提供する」という厳格なルールがあり、ある店舗が混雑して2分を超えそうになると、システムが周辺の空いている店舗へ自動的に注文を割り振ります。 

 

2.シフトの自動最適化 

店舗は基本2〜4名で運営されており、AIが作業量と人員配置をリアルタイムで最適化するため、少人数でも品質とスピードを維持できます。 

シフトの最適化のために、店舗ごとに「待機スタッフ」が設定されています。待機スタッフは店舗の近隣に住むアルバイト・パートで、自宅や移動可能な範囲で待機し、アプリの通知で呼び出される仕組みです。 

AIが混雑を検知すると、待機スタッフに「30分後に出勤」「次のピークに備えて移動開始」など具体的な指示が届きます。店長が電話で人を集める必要はなく、少人数店舗でもピークを乗り切れる構造です。 

 

3.脱・ベテラン依存 

原材料の発注量は、システムが過去のデータから最適な数値を自動算出します。 

さらに、スイス製の最高級全自動コーヒーマシンを導入し、スタッフはアプリの画面の指示通りにカップを置き、ボタンを1つ押すだけで、誰が作っても100%同じ最高品質のコーヒーが完成します。 

この他、注文が入らないときには、スタッフが持つ端末に、AIから「○時○分:マシンの洗浄をしてください」「○時○分:賞味期限のチェックをしてください」と具体的な指示が入ります。スタッフは自分の頭で考える必要がなく、スマホの指示通りに体を動かすだけで店舗が完璧に回ります。 

このように業務から「人間の経験や勘」を徹底的に排除しているため、経験の浅い店長でも適切な運営ができ、スタッフが急に辞めても店舗運営が破綻しない仕組みになっています。 

24時間監視する自販機

A社の販売チャネルは有人店舗だけではありません。まだ中国だけですが、最先端の「無人自動コーヒー自販機」もあります。 

主に、北京や上海などの大都市のオフィスビルや大学のキャンパスに置かれています。 

マシンを設置する1畳分のスペースさえあれば進出できるので、「わざわざ1階のカフェまで降りて並びたくないオフィスワーカー」「いつでもコーヒーを飲みたい学生」の需要を満たしているというわけです。 

見た目は、日本の挽きたてコーヒーの自販機と似ています。しかし、決定的に違うポイントが3つあります。 

ホイップクリームをトッピングしたアイスキャラメルラテのイメージ写真

1.「誰が・いつ・何を買ったか」を完璧に把握 

アプリで事前に注文・決済を済ませてから、画面のQRコードをかざして受け取るため、マシン自体に現金投入口や決済端末がありません。 

「近くのオフィスで働く30代のAさんが、今週3回目のラテを、この自販機で買った」ということまでデータで紐付いており、次にその人がアプリを開いたときにピンポイントで割引クーポンを届けるマーケティングを行っています。 

 

2.「無人なのに店舗と同じ味」を実現 

自販機は、「超小型の無人店舗」という扱いです。スイス製の高級コーヒーマシンを搭載し、有人店舗と同じ「WBC(世界バリスタチャンピオン)監修のプレミアム豆」と「高品質なミルク」を使用し、わずか30秒で挽きたて・淹れたての本格コーヒーが出てきます。 

 

3.スマホアプリと「遠隔監視システム」の完全連動 

顧客がアプリを開くと、GPSで最寄りのマシンがマップ表示されます。そこに向かう途中で注文を確定できます。 

さらに、マシン内の「コーヒー豆やミルクの残量」は通信センサー(IoT)によってリアルタイムで本部に送信されます。万が一の故障発生時もシステムが自動検知し、1時間以内に修理技術者が駆けつける体制が構築されています。 

商品開発もデータで審査

新メニューの開発も、職人の勘ではなく完全にデータ主義です。新商品の発売は、次の5つのデジタル部門すべてから承認を得ることが条件になっています。 

 

1.製品分析部門 

顧客の過去の購買履歴から「どんな味が好まれるか」のトレンドや原材料の価格、必要量をデータ分析します。 

2.製品研究開発(R&D)部門 

分析された顧客の好みのデータをベースに、味(フレーバー)を調合・作成します。 

3.メニュー管理部門 

アプリ上のメニューへの反映や価格設定が、顧客の画面でスムーズに連動するかをシステム上で確認します。 

4.製品テスト部門 

一部の店舗で小規模にテスト販売を行い、実際の顧客の反応(リピート率や売上)をデータとして集計します。 

5.製品最適化部門 

テスト販売時に「店舗での製造工程が複雑すぎないか」を検証し、現場の負担を減らすために製造ステップの簡素化・最適化を行います。 

 

A社は、飲食店運営を「人の経験」から「システムの制御」へと完全に置き換えた企業です。注文・決済・製造・発注・シフト・商品開発まで、すべてがデジタル前提で統合されているため、店舗数が増えても品質や運営精度が落ちません。 

3万店を超える規模を支えているのは、店舗スタッフではなく、リアルタイムで全体を監視し、最適化し続けるAIです。 

 

A社の築いた仕組みは働き方にも変化を生み、業務のシンプルさや余計なストレスの少なさを好む人には向く一方、裁量や創造性を求める人には不向きという「働き方の二極化」を生んでいます。A社は、店舗運営だけでなく、働き方の標準まで変えていく、 飲食業の次のモデルと言えるでしょう。 

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代 

発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー 

  代表取締役 毛利英昭 

※ 当記事は2026年9月時点のものです。
 時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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