スーパーマーケットの生産性向上の取り組み方―「人を減らす」から「人時の価値を高める」へ―
お店づくりトピックス
人手不足や人件費、原材料費、物流費、光熱費などの上昇が続く中、スーパーマーケットにとって生産性向上は、これまで以上に重要な経営課題となっています。しかし、生産性向上とは単に人を減らし、作業時間を短縮することではありません。限られた人員と時間をどこに振り向け、いかに大きな付加価値を生み出すかが問われています。省人化から省力化へ、そして「人時を減らす」から「人時の価値を高める」へ。これからの生産性向上の考え方を改めて整理します。
パフォーマンス重視の時代
「コストパフォーマンス(コスパ)」から派生した「タイムパフォーマンス(タイパ)」という言葉が日常的に使われるようになり、さらに最近では、限られた空間をどれだけ有効に使うかを示す「スペースパフォーマンス(スペパ)」など、さまざまな「パフォーマンス」が意識されるようになりました。
これらに共通する考え方は、限られたお金、時間、空間、人員などの「投入量(インプット)」に対して、どれだけ大きな「成果(アウトプット)」を生み出せるかということです。これはまさに「生産性」の考え方そのものです。
スーパーマーケットにとって、生産性向上は以前から重要な経営テーマでした。しかし、人手不足や人件費、原材料費、物流費、光熱費などの上昇が続く現在、その重要性は一段と高まっています。従来と同じ人数、同じ作業方法、同じ店舗運営を続けながら、増加するコストを吸収していくことは難しくなっています。
そこで求められているのが、「いかに人を減らすか」ではなく、限られた人員と時間で、いかに大きな付加価値を生み出すかという発想への転換です。企業レベルでは3S1CやDXの推進、店舗レベルではマテハンの進化、セルフレジ化、AI活用、個人レベルでは作業改善や品揃え改善など、大小さまざまな取り組みが進められています。大切なのは、それぞれの施策を単独で捉えるのではなく、「何のために生産性を高めるのか」という目的から考えることが大切です。
生産性向上は「人を減らすこと」ではない
生産性向上というと、真っ先に「省人化」「人件費削減」を思い浮かべる人も少なくありません。確かにセルフレジ、自動発注、電子棚札、マテハン機器、AIなどを活用し、従来人手で行っていた作業を機械やシステムに置き換えることは重要です。しかし、それだけが生産性向上ではありません。
店舗の代表的な生産性指標である「人時生産性」は、「荒利益高÷総労働時間」で表されます。つまり、人時生産性を高める方法には二つあります。一つは分母である「総労働時間」を減らすこと。もう一つは分子である「荒利益高」を増やすことです。
ここを忘れて労働時間だけを削減すると、品出しが遅れ、欠品が増える、売場が乱れる、鮮度チェックが不十分になる、レジの待ち時間が長くなる、お客様への対応が減る、といった問題が起こりかねません。短期的には人件費が下がっても、売上や顧客満足度が低下し、結果として生産性まで悪化する可能性があります。
したがって、これからのスーパーマーケットに必要なのは、単なる「省人化」ではなく、省力化によって生み出した時間を、より付加価値の高い仕事へ振り向けることと考えるべきと思います。
店舗業務を考える際には、「作業生産性」と「付加価値生産性」の二つに分けて考えると分かりやすくなります。
商品の運搬、検品、品出し、発注、棚札交換、レジ精算などは、店舗運営に不可欠な仕事です。一方、その作業そのものがお客様に大きな付加価値を提供しているとは限りません。こうした仕事は、標準化、単純化、専門化、集中化、機械化、デジタル化によって効率を高めていく必要があります。
一方で、売場づくり、商品提案、鮮度管理、惣菜の商品開発、お客様への声掛けや相談対応などは、売上や荒利益、顧客満足度を高める可能性を持った仕事です。
重要なのは、前者に使う時間を減らし、後者に使える時間を増やすことです。例えば、自動発注を導入する目的は「発注時間を30分短縮すること」だけではありません。その30分を売場確認や欠品防止、商品提案などに振り向け、その結果として売上や荒利益が増えて初めて、本当の意味で生産性が向上したといえます。
生産性向上の目的と生産性を測る代表的な指標
生産性向上は、企業側のコスト削減だけを目的とするものではありません。
第一に、持続的な経営基盤の強化です。収益性が高まれば、安定した経営とともに、新店舗、改装、設備、DX、人材育成など将来に向けた投資が可能になります。
第二に、競争力の強化と差別化です。効率化によって生まれた時間やコストを、店舗づくりや商品開発、サービス向上に振り向けることで、店舗の魅力を高めることができます。
第三に、人手不足への対応です。必要以上に人手をかけている作業を見直し、機械やデジタル技術に任せられる仕事を移行することで、少ない人数でも店舗を運営できる体制をつくります。
第四に、従業員の待遇と働きがいの向上です。生産性が高まれば、賃金や休日など労働条件を改善する余地が生まれ、採用や定着にもプラスに働きます。また、単純作業から付加価値の高い仕事へ役割を移すことは、能力開発やモチベーション向上にもつながります。
そして第五が、お客様満足度の向上です。効率化によって生まれた時間を接客や売場づくりに使うことができれば、お客様にとっての店舗の魅力を高めることができます。
つまり、企業、従業員、お客様の三者に成果を還元することこそ、生産性向上の本来の目的なのです。
生産性向上は、感覚だけでなく数値で確認することが重要です。企業レベルでは、ROI(投資利益率)、売上高販管費比率、営業利益率、労働分配率などが代表的な指標となります。
ROIは、店舗、設備、在庫などへの投資に対して、どれだけ利益を生み出したかを見る指標です。売上高販管費比率は売上高に対する販売費・一般管理費の割合、営業利益率は売上高に対する営業利益の割合、労働分配率は荒利益に対して人件費がどの程度を占めているかを示します。
店舗レベルでは、人時生産性、商品回転率、交差比率、坪効率などがあります。特にスーパーマーケットではパートタイマーなど短時間勤務者が多いため、「従業員一人当たり」よりも、投入した総労働時間で成果を測る人時生産性が重要になります。
- 人時生産性=荒利益高÷総労働時間
- 商品回転率=売上原価(または売上高)÷平均在庫金額(または数量)
- 交差比率=荒利益率×商品回転率
- 坪効率=売上高÷売場坪数
ただし、一つの数字だけを追いかけることには注意が必要です。例えば坪効率を高めるために商品を詰め込み過ぎれば、買い物のしやすさを損なう可能性があります。在庫を減らして商品回転率を上げても、欠品が増えれば販売機会を失います。労働時間を削減して人時生産性を高めても、サービスレベルが低下してお客様が離れてしまえば意味がありません。
したがって、売上、荒利益、在庫、労働時間、ロス、顧客満足など複数の指標を組み合わせて判断することが必要です。
DX・AIは「導入」ではなく「成果」で評価する
近年は、セルフレジ、スマートカート、電子棚札、自動発注、需要予測、AIカメラなど、生産性向上を支援する技術が次々と登場しています。しかし、新しいシステムを導入したこと自体をDXの成果にしてはいけません。重要なのは、「導入した結果、何が変わったのか」です。
発注時間は何時間減ったのか。欠品率は改善したのか。値下げや廃棄は減ったのか。レジに必要な人時は減ったのか。そして、そこで生まれた人時を何に振り向け、売上、荒利益、顧客満足度はどう変化したのか。こうしたところまで検証して初めて、投資効果を判断できます。
例えばAIによる需要予測で発注精度が高まれば、発注作業時間の短縮だけでなく、欠品による機会損失や過剰在庫、値下げ・廃棄ロスの削減にもつながります。電子棚札も、価格変更作業を減らすだけでなく、売価変更の迅速化や表示ミス防止まで含めて評価する必要があります。
その意味では、DXやAIも目的ではなく、生産性を高めるための手段の一つにすぎません。
「1秒をけずる」改善と、「やめる」改善
東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)には、「その1秒をけずりだせ」という言葉があります。各選手が最後の1秒まで縮めるために日々の練習を積み重ねる姿勢は、店舗の生産性改善にも通じるものがあります。
店舗の作業を観察すると、一回では数秒、数十秒程度の小さなムダが数多く存在します。しかし、それが毎日、全店舗、全従業員で繰り返されれば、その差は膨大な時間になります。
したがって、「業務の見える化」→「仮説」→「実行」→「検証」という改善を繰り返し、小さなムダを削り続けることが重要です。
ただし、もう一つ忘れてはいけないことがあります。それは、「1秒をけずる」前に、その仕事そのものが本当に必要なのかを考えることです。
10分かかっている作業を工夫して8分にするのも改善ですが、その作業自体をやめることができれば10分すべてを削減できます。「昔からやっているから」「決められているから」という理由だけで続いている作業はないでしょうか。
生産性向上では、「速くする」「簡単にする」「まとめる」「機械に任せる」だけでなく、「やめる」ことも重要な選択肢です。3S1Cの考え方とともに、業務そのものの必要性をゼロベースで見直す視点が求められます。
人時の「量」から「価値」へ
今後、スーパーマーケットを取り巻く人手不足が簡単に解消するとは考えにくく、限られた人員で店舗を運営する力はますます重要になります。だからこそ、生産性向上を「人件費削減」とだけ捉えるべきではありません。
機械にできることは機械に、AIにできることはAIに任せる。そして、そこで生まれた時間を、人にしかできない仕事に振り向ける。
お客様に「こんにちは」と声を掛ける。今日のお薦め商品を伝える。料理方法を説明する。売場を見ながら商品の状態を確認する。地域のお客様の声を聞き、品揃えに反映する。こうした仕事は、単純に作業時間だけでは価値を測ることが難しい一方、店舗の魅力や競争力を生み出す重要な仕事です。
これからのスーパーマーケットに求められる生産性向上とは、単に「少ない人数で同じ仕事をすること」ではありません。ムダな仕事を減らし、人が本来やるべき仕事に時間を戻す。そして限られた一人ひとりの1時間から、より大きな価値を生み出すことです。
「人時を減らす経営」から「人時の価値を高める経営」へ。
生産性向上をコスト削減のための活動に終わらせず、従業員の働きがいとお客様の満足、そして店舗の競争力を同時に高めていく。その視点こそが、人手不足とコスト上昇が続く時代のスーパーマーケットに求められる生産性向上ではないでしょうか。
生産性向上の目的は、単なるコスト削減ではありません。機械やAIに任せられる仕事は任せ、そこで生まれた時間を、売場づくりや商品提案、お客様とのコミュニケーションなど、人にしかできない仕事へ振り向けることが重要です。その結果として企業の収益性を高め、従業員の働きがいを生み、お客様の満足度を高める。「人時を減らす経営」から「人時の価値を高める経営」へ――。そこに、人手不足時代のスーパーマーケットが目指すべき生産性向上の本質があります。
<用語解説>
・コスパ:費用対効果。支払ったお金に対して得られた効果・満足度。
・タイパ:時間対効果。費やした時間に対して得られた効果・満足度。
・スペパ:空間対効果。限られた空間からどれだけの成果や価値を生み出すかという考え方。
・ウェルビーイング:身体的・精神的・社会的に満たされ、幸福感や充実感を感じられる良好な状態。
・3S1C:標準化(Standardization)・単純化(Simplification)・専門化(Specialization)・集中化(Centralization)。
・DX:Digital Transformationの略。デジタル技術を活用し、業務や組織、ビジネスそのものを変革すること。
・マテハン:Material Handlingの略。物の運搬・保管・仕分けなどを効率化・自動化するための機器や仕組み。
(文)特定非営利活動法人JOFリンク
代表 小川英治
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※ 当記事は2026年8月時点のものです。
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