リテールメディアへの期待と収益化のポイント

国内外流通トピックス

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小売が自社のEC・店舗・アプリを広告媒体にする「リテールメディア」への期待が高まっています。一方で、「思ったほど収益にならない」という声も少なくありません。本稿では、期待と現実の差がどこで生まれているのかを整理し、収益化に向けて押さえるべきポイントを分かりやすく解説します。

リテールメディアへの期待

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1.リテールメディアとは

まず、リテールメディアとは何かを整理します。これは、小売が持つ資産――自社のECサイトやアプリ、実店舗といった顧客接点――を活用し、メーカーや卸などの広告主に広告の場を提供して収入を得る仕組みのことです。

身近な例が、ネット通販サイトの検索結果に並ぶ「PR」付きの商品です。メーカーや卸は、「自社商品を上位に表示したい」と考え、小売のECサイトに広告料を支払います。これが典型的な形です。実店舗であれば、店内のデジタルサイネージやアプリを通じたクーポン配信なども含まれます。

なぜ、リテールメディアが注目されているのでしょうか。そのカギは、小売が持つ「購買データ」にあります。小売は、「誰が、何を、いつ買ったか」というメーカーや卸ではなかなか得ることのできない情報を保有しています。そして、このデータを使えば、広告を「買う可能性の高い人」に狙って届けることが可能となります。その結果、「広告の無駄が減り、広告効果が高まる」というのが、リテールメディアの原理的な強みです。

2.収益構造としての魅力

小売にとって、リテールメディアの最大の魅力は、その利益率の高さにあります。

小売の本業である物販は、構造的に利益率が高くありません。仕入れて売る以上、粗利には限界があります。これに対し広告事業は、いったん仕組みを整えれば、追加の仕入れが発生しません。広告の場を提供するだけなので、本業よりはるかに高い利益率が見込めます。

仕入価格や人件費、物流費の上昇によって本業の利益が圧迫される中、「既存の顧客基盤を使って、高利益の収入源を新たに得る」という構図は、極めて魅力的に映ります。だからこそ、多くの小売企業がこの領域に関心を寄せてきました。

3.追い風となった市場環境

この期待を後押ししたのが、広告市場とEC市場、二つの拡大です。

電通「2025年 日本の広告費」によれば、2025年の日本の総広告費は8兆623億円となり、このうちインターネット広告費は4兆459億円と、初めて総広告費の過半数(構成比50.2%)を占めました。広告の主戦場が、完全にデジタルへ移行したことを示す数字です。

主要媒体別広告費の推移

主要媒体別広告費の推移の図表
出所:電通「2025年 日本の広告費」より筆者作成

また、経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によれば、2024年の消費者向け電子商取引(BtoC-EC)市場規模は26兆1,225億円、物販系分野だけでも15兆2,194億円に達し、EC化率も9.78%まで上昇しています。

 

物販系分野のBtoC-EC市場規模(単位:億円)及びEC化率の推移

物販系分野のBtoC-EC市場規模及びEC化率の推移の図表
出所:経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」より筆者作成

デジタル広告の伸びと、EC市場の拡大。この二つの追い風を受け、リテールメディアは「次の有望市場」として大きな期待を集めたのです。

リテールメディアの現状の課題

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しかし、期待どおりに収益が上がっている例は、決して多くありません。ここでは、現状で生じている課題を三つに整理します。

1.成長鈍化という現実

第一の課題は、市場が必ずしも一本調子で伸びていない点です。

電通「日本の広告費」には、前述のインターネット広告費の内訳にリテールメディアの主要部分を映す「物販系ECプラットフォーム広告費」という項目があります。これは、大手のECサイト内で、出店事業者が投じた広告費を指します。

この数字を見ると、2024年の物販系ECプラットフォーム広告費は2,172億円で、前年比の伸びはわずか3.4%にとどまりました。インターネット広告全体が約10%成長する中で、この低さは際立っています。翌2025年には2,444億円(前年比12.5%増)と二桁成長に戻ったものの、市場が常に高成長を続けるとは限らないことが明らかになりました。

 

インターネット広告費と物販系ECプラットフォーム広告費の推移

インターネット広告費と物販系ECプラットフォーム広告費の推移の図表
出所:電通「2025年 日本の広告費」より筆者作成

背景の一つが、大手ECの利用者数がすでに飽和に近づいていることです。新規利用者が大きく増えなければ、広告を表示できる場所(広告在庫)も大きくは増えません。「無限に伸びる市場」という前提そのものを、見直す必要があります。

2.規模への収益集中

第二の課題は、より構造的な問題です。それは、収益が一部の巨大事業者に強く集中している点です。

前述の物販系ECプラットフォーム広告費は、その大半を大手のECが占めているとみられます。市場規模の数字は大きく見えても、その果実の多くは、圧倒的な利用者数とデータ量を持つ少数のプラットフォームに流れているのです。

リテールメディアが成立するには、「広告を届ける大量の利用者」と「狙って届けるための豊富なデータ」の両方が要ります。これは本質的に規模が効く世界です。利用者数が限られる事業者が、同じ土俵で正面から競えば、広告主にとっての魅力(リーチできる人数)で見劣りするのは避けられません。

つまり、リテールメディアは「小売であれば誰でも収益化できる」仕組みではありません。規模の差が、そのまま収益力の差として表れる世界なのです。

3.見えにくい運用負荷

第三の課題は、しばしば見落とされる「運用コスト」の重さです。

「広告の場を提供するだけだから利益率が高い」というのは、理論上は正しい話です。しかし実際に事業として回すには、次のような仕組みと人材が不可欠です。

  • 広告を配信・管理するシステムの構築と維持
  • 購買データを統合・分析する基盤
  • 広告主に成果を報告する仕組み
  • 広告枠を販売する営業体制
  • 個人情報を適切に扱う管理・法務体制

これらを整えるには、相応の初期投資と、継続的な運用工数がかかります。広告収入が魅力的でも、それを上回るコストが発生すれば、事業としては成立しません。とりわけ広告事業のノウハウを持たない事業者にとって、この負荷は想像以上に重くのしかかります。「高利益」という表面的な魅力の裏に、相当のコストが隠れている。ここが、期待と現実の差を生む最大の要因です。

収益化に向けたポイント

では、これらの課題をどう乗り越えればよいのでしょうか。ここからは、収益化に向けて押さえるべき四つのポイントを整理します。

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1.「自前」か「相乗り」かの見極め

第一のポイントは、そもそも自社でメディアを持つべきかを、冷静に見極めることです。

前章で述べたとおり、リテールメディアは規模が効く世界です。利用者数やデータ量が限られる状態で、大規模な自前メディアの構築に踏み切れば、投資を回収できないおそれがあります。

現実的な選択肢は、既存の巨大プラットフォームに「相乗り」することです。つまり、自らメディアを運営するのではなく、大手ECサイトなどのリテールメディアを、広告を出す側として賢く使うという立場です。これなら大きな初期投資を伴わずに、購買データを活かした広告の恩恵を受けられます。

「メディアを持つ」ことが目的化していないか。まずここを問い直すことが、無駄な投資を避ける第一歩になります。

2.「狭く深い」領域への集中

第二のポイントは、規模で競わない領域を選ぶことです。

巨大プラットフォームが得意とするのは、幅広い一般消費者に向けた広告です。裏を返せば、特定の地域、特定の趣味、特定の専門分野といった「狭くて深い」市場は、大手の目が届きにくい領域です。

自社の顧客基盤を活かすのであれば、この「狭く深い」つながりにこそ価値があります。熱心なファンが集まる自社アプリや会員組織があれば、そこでの商品提案は、不特定多数に向けた広告よりも高い反応を生むことがあります。「リーチの広さで勝てないなら、関係の深さで勝つ」。これが規模の制約を逆手に取る発想です。

3.効果測定にもとづく出稿判断

第三のポイントは、広告を出稿する側の立場として、費用対効果を厳しく見極めることです。

広告の主戦場が大手ECに集中する以上、広告枠の獲得競争は激しくなり、単価も上昇しやすくなります。この環境で「周囲がやっているから」と漫然と出稿を続ければ、費用ばかりがかさみます。

重要なのは、次の点を必ず数字で確認することです。

  • その広告によって、実際にいくら売れたのか
  • 広告費を差し引いて、利益が残っているのか
  • 自社商品の客層と、その媒体の利用者層は合っているのか

リテールメディアの本来の利点は、「効果が購買データで測れる」ことにあります。この利点を活かし、成果の出る出稿だけを残していく。この規律こそが、収益化の実務です。

4.段階的な投資による立ち上げ

第四のポイントは、一度に完成形を目指さないことです。

リテールメディアの失敗例に共通するのは、最初から大規模な仕組みを構築し、その運用コストに耐えきれなくなる展開です。これを避けるには、小さく始めて、成果を確認しながら広げる進め方が有効です。

例えば、まずは自社アプリでのクーポン配信から始め、反応が良ければ広告枠として商品化する。効果測定の仕組みも、簡易なものから始め、必要に応じて精緻化していく。EC市場は拡大しているとはいえ、成長率には変動があります。市場の勢いを前提に大型投資を先行させるのではなく、自社の成果を前提に投資を積み増す。この順序が、収益化の確度を高めます。

システム開発視点での支援のあり方

最後に、小売を顧客とするシステム開発の視点から、この領域にどう向き合うべきかを整理します。リテールメディアは大きな商機であると同時に、顧客に過剰な期待を抱かせない誠実さが問われる領域でもあります。

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1.「広告システム」ではなく「データ基盤」の提案

システム開発が陥りやすいのが、「リテールメディア=広告配信システム」と捉えてしまうことです。しかし、これまで見てきたとおり、配信システムだけを構築しても、利用者数とデータがなければ収益は生まれません。

提案すべきは、その土台となるデータ基盤です。すなわち、購買データ(ID-POS)を統合し、顧客を理解し、活用できる状態に整える仕組みです。リテールメディアは、このデータ基盤の「出口の一つ」にすぎません。

顧客に対しては、「広告で稼ぎましょう」ではなく、「まず顧客データを活かせる基盤を整えましょう。その活用先の一つがリテールメディアです」と伝える。この順序が、顧客の失敗を防ぎ、長期的な信頼につながります。

2.規模に応じた現実解の提示

また、システム開発側の重要な役割には、顧客の規模に見合った現実的な構想を示すことも含まれます。

リテールメディアは規模が効く世界です。利用者基盤が限られる顧客に対し、大手と同じ規模の構想を提案すれば、投資は回収できず、プロジェクトは頓挫します。これは顧客にとってもシステム開発会社にとっても不幸な結末です。

そこで求められるのが、顧客の利用者規模とデータ量を冷静に見極め、「自前でメディアを持つべきか」「既存プラットフォームの活用支援に徹するべきか」を助言することです。市場の数字を追い風として語るだけでなく、成長率の変動という事実も併せて示し、地に足のついた落としどころを提示する。これがシステム開発会社の付加価値になります。

3.効果測定基盤という差別化領域

最後に、システム開発会社が明確に差別化できるのが、効果測定の仕組みづくりです。

リテールメディアの最大の強みは、「広告を見た人が実際に購入したか」を購買データで確認できる点にあります。しかし、この測定を正確に行うには、広告データと購買データを結びつける、技術的に難易度の高い仕組みが必要です。

ここにシステム開発会社の出番があります。広告主が「本当に成果が出たのか」を明確に把握できる基盤を提供できれば、それはリテールメディアそのものの信頼性を高めます。「期待ほど儲からない」という不信感の多くは、効果が曖昧なまま出稿が続くことから生じます。成果を透明化し、収益につながる出稿だけを選べるようにする支援こそ、システム開発会社が提供できる本質的な価値です。

 

リテールメディアが期待どおりの収益に結びつかないのは、その本質が「規模とデータが効く世界」であり、運用に相応のコストがかかるからです。市場の成長には波があり、収益は一部の巨大事業者に集中しています。しかし、これは悲観すべき話ではありません。自前主義に固執せず既存の仕組みを活用し、大手が届かない「狭く深い」領域を選び、効果測定にもとづいて出稿を判断し、段階的に投資する。この四点を押さえれば、収益化への道は開けます。そしてシステム開発会社は、広告システムそのものではなく、その土台となるデータ基盤と効果測定を提供することで、顧客の現実的な成功を支えられます。期待に踊らされず、自らの立ち位置に合った設計を選ぶことが収益化の出発点です。

 

(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

  • 当記事は2026年10月時点のものです。
    時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。
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