韓国の無人店舗はなぜ成立するのか? 日本とは異なる文化背景

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韓国では、最低賃金の上昇や非対面ニーズの高まりを背景に、無人店舗が急速に広がっています。ソウルの街角では無人カフェや無人コンビニが日常の風景となり、深夜でも営業して明るい「人に会わない小売」が当たり前になりつつあります。一方で、急成長の裏側では盗難や破損といった課題も顕在化しており、無人店舗は新たな局面を迎えています。

韓国で無人店舗が急増

韓国・ソウルでは、無人カフェや無人コンビニエンスストア(以下、コンビニ)が街の至るところに登場しています。若者が集まる弘大や江南だけでなく、住宅街やオフィス街にも広がり、「人に会わずに買い物や飲み物の受け取りができる店」が日常の風景になっています。深夜でも店内は明るく、入店から決済まで非対面で完結する店舗が増えています。

ソウルだけではなく、全国に無人店舗があり、一般的な小さなコンビニやカフェの他に、アイスクリーム店、より大規模なベーカリー、衣料品ブティック、生花店まで、バリエーションは多岐にわたっています。無人のペットショップでは、ペットフードやおやつの販売だけではなく、飼い主が犬を洗うことができるシャワースペースもあります。

CCTVとセルフレジで運営

無人店舗の先駆けといえば、米国のAMです。2016年に実験店舗を発表し、2018年に一般向け店舗をオープンしました。棚の動きをAIで認識する高度なシステムは革新的でしたが、1店舗あたり数億円規模の初期投資が必要で、運営コストも高額でした。

その結果、採算が取れず、20232024年にかけて多くの店舗が閉鎖されてきましたが、ついに全店閉鎖する方針を打ち出しました。

こうした背景から、韓国ではAM型ではなく、CCTV(監視カメラシステム)とセルフレジを組み合わせた「低コストで現実的な無人店舗モデル」が主流になっています。

防犯と遠隔監視をCCTVで行い、商品は顧客が棚から取り出して、キオスク端末でスキャンし、クレジットカードやアプリで決済する「セルフレジ・キオスク」方式を採用しています。

韓国の無人店舗は2024年頃から全国的に広がり、2025年にはコンビニ大手だけで約3,000店舗が無人・ハイブリッド化。カフェやランドリーなどを含めると1万店規模に達し、2026年には公式に12,000店舗を超えるまでに拡大しました。

最低賃金が急上昇

韓国で無人店舗が急速に広がった背景には、コロナ禍による非対面ニーズの高まりだけでなく、最低賃金の上昇やキャッシュレス決済の普及、CCTVを前提とした社会インフラなど、複数の社会的・技術的要因が重なっています。こうした環境が、無人店舗を後押しし、コロナ後も増加が続いています。

まず、韓国では最低賃金の上昇が続き、深夜帯の人件費が店舗運営の大きな負担になっています。20182024年の間に30%以上上昇し、2026年には全国一律で時給1320ウォン(約1,130円)に達しました。

この急激な上昇が深夜帯の人件費を大きく押し上げ、コンビニやカフェが「無人化」を選ぶ強い動機になっています。

一方、日本の最低賃金は都道府県別で、2025年度にすべての都道府県で初めて1,000円台に達し、全国平均は1,121円になりました。日本より最低賃金が高く、しかも全国一律の韓国では、地方の小規模店舗ほど人件費負担が重く、無人化が急速に進んでいます。

韓国のコンビニは24時間営業が基本で、コンビニ大手3社は2021年のコロナ禍以降、「昼は有人、夜は無人」というハイブリッド運営を急速に拡大してきました。2025年時点では、全国で約3,000店舗が無人化モデルに移行したことになります。

なお、無人店舗といっても、商品の補充や清掃は巡回スタッフが定期的に行っています。

「深夜の売上が低い地方の店舗などでは、夜だけ無人に切り替える店舗が増えています。ただ、酒やタバコのように対面販売が必要な商品は扱えないため、有人店のほうが収益性は高く、無人モデルの伸びは最近やや鈍っています」と関係者は説明します。

一方、空港や大型ホテルでは、コスメや日用品を扱うドラッグストアのBYが日本のコンビニに近い存在として利用されており、同社でも無人店舗の展開が進んでいます。

世界銀行などによると、韓国は世界でも有数のキャッシュレス国家で、消費者取引の大半がカードやモバイル決済で行われています。2024年の現金使用率はわずか16%にとどまり、北欧諸国に次ぐ「ほぼ現金を使わない社会」が形成されています。日本のキャッシュレス比率は42.8%にとどまり、依然として現金社会です。

CCTVが社会インフラ

韓国は世界でも有数のCCTVの設置密度が高い国です。CCTVは閉じた回線で映像を送る監視カメラシステムの総称で、公共放送のように開かれた電波ではなく、特定の場所(警備室・サーバー)にだけ映像が送られる仕組みです。

CCTVは日本の監視カメラに相当しますが、韓国では防犯だけでなく、店舗監視や交通監視、学校・マンションの安全管理など、生活のあらゆる場面でCCTVが日本よりも浸透しており、社会インフラとして広く受け入れられています。この監視カメラ文化が、無人店舗の急速な普及を支える大きな要因になっています。

ソウル市内では、主要エリアのほとんどに監視カメラが設置されており、無人店舗でも常時録画・遠隔監視が行われています。

小さな無人アイスクリーム店でも58台のカメラがあり、コンビニ大手はAI搭載CCTVを導入し、店舗スタッフが遠隔で声かけできる仕組みも普及しています。

このように「無人=無防備」ではなく、「無人でも監視されている」社会であるため、万引きリスクが低く、無人店舗が成立しやすい環境が整っています。

日本と比べると、韓国では監視カメラが生活インフラとして広く受け入れられており、「安全のための監視」という価値観が一般的です。

深夜カルチャーが浸透

韓国は深夜に活動する文化が強い国です。例えば、受験勉強で深夜までカフェにいる学生や仕事後に遅くまで外食する社会人がいて、24時間営業のチキン店やカフェがあり、ソウルには深夜でも明るい繁華街が各地に存在します。

こうした生活リズムの中で、深夜帯の人件費が高騰すると、「深夜は無人で運営する」という選択が合理的になります。先述したように、韓国のコンビニ大手では昼は有人、夜は無人というハイブリッド運営を急速に広げています。

さらに韓国の若い世代、いわゆるMZ世代(ミレニアル世代+Z世代)は、世界的にも特に非対面サービスを好む傾向があります。子どものころからスマホやアプリを使う生活が当たり前で、店員とのやりとりよりも、アプリやキオスクで完結する非対面サービスを好む傾向があります。

カフェで長時間作業したいけれど、店員の目が気になるといった価値観が、無人カフェや無人コンビニと非常に相性が良いのです。

以上のとおり、韓国で無人店舗が急増していますが、一方で盗難や器物損壊の増加が大きな課題になっています。韓国警察庁の統計では、無人店舗での窃盗件数は2021年の3,514件から、2022年には6,018件へと1.7倍に増加し、2025年には1万件を超えました。

韓国の国民権益委員会のデータでも、無人店舗に関する苦情件数は2022年の月平均54件から、2024年には103件へと倍増しています。

こうした状況を受け、入店時のクレジットカード・QR認証、AI搭載CCTV、電子ロックなどの「スマートセキュリティ」の導入が不可欠となり、無人店舗は「無人でも安全をどう確保するか」という新たな段階に入っています。

(文)経済ジャーナリスト  
嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー  
代表取締役 毛利英昭

※ 当記事は2026年4月時点のものです。
  時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

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